コラム

死の淵に立っても劉暁波を容赦しない「人でなし」共産党

2017年07月13日(木)18時30分

<ノーベル平和賞を受賞した人権活動家の劉暁波は獄中で末期癌になっているが、中国共産党は釈放どころか見舞いを受けるというまっとうな権利も与えていない>

ここ数日、世界中の中国に関心がある人の間で一番話題になっているのが作家・人権活動家の劉暁波の病状(13日夕方に死去と報道された)だ。彼は「08憲章」を起草して08年に逮捕され、09年に「国家政権転覆扇動罪」で懲役11年の有罪判決を受けた。10年にノーベル平和賞を受賞した時は獄中にいた。授賞式の空っぽの椅子は、その1年の中でも記憶に残るニュースになった。

劉暁波は友人を通じて、同じ死ぬにしても中国国外でむしろ死にたい、という強い願いを公表。長期にわたり軟禁され、その結果鬱病になった妻の劉霞を心配し、彼女が彼と一緒に自由な世界に行くことを望んでいる。

刑務所に行く以前から、劉暁波には肝炎の病歴があった。しかし刑務所の極めて劣悪な住環境と飲食が彼の健康を害したのだろう。中国各地の劉暁波の健康に関心のあるネットユーザーが次から次へと劉暁波のいる病院に向かったが、腹立たしいことに末期癌であるにも関わらず、彼は依然としてお見舞いを受けるというまっとうな権利も享受できていない。

共産党当局は彼のいる病院のフロアを封鎖。さらには病院の向かい側にあるホテルの病院方向の部屋に客を入れるのを禁止し、取材のため病院に入り込もうとしたアメリカの記者も殴り飛ばした。

漫画を描き終わり、このコラムを書いている今、劉暁波はすでに危篤状態になっている。数日前、共産党はようやくドイツとアメリカの専門家の検診を許したが、依然として彼らが専用機で劉暁波を国外に移すことは拒絶した。ドイツで開かれたG20で、独首相のメルケルは何度も習近平に向かって劉暁波の釈放を希望する、とお願いしたそうだ。習の回答は帰国した後に会議を開いて検討する、というものだった。

私の経験から言えば、習近平のこの態度表明は欺瞞でしかない。果たせるかな、帰国した後に彼は劉暁波の問題についていかなる会議も開かず研究もせず、ただ漫然と劉暁波を死に向かわせようとしている。

ある友人が中国の刑務所で、たくさんの骨箱が置かれた部屋を見つけた。彼は看守に「まさか遺族が遺骨の受け取りを拒否しているのか?」と尋ねると、看守は「こいつら罪人は刑期が終わらないうちに死んだから、刑期が満了になるまで遺骨を家族に返さないのだ」と答えたという。

劉暁波は世界でただ1人の獄中ノーベル平和賞受賞者ではない。しかし、彼はノーベル平和賞受賞者の中で、最初に獄中で死ぬ人物になりそうだ。彼が判決を受ける時、法廷で読むことを許可されなかった手紙がある。その中の一文にこうある。「私には敵はいない。憎しみもない」。

劉暁波に敵はいない。しかし中国共産党にとって彼はあくまでせん滅すべき敵でしかない。

プロフィール

辣椒(ラージャオ、王立銘)

風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザで戦争犯罪容

ビジネス

米中古住宅販売、10月は3.4%増の396万戸 

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、4
今、あなたにオススメ
>
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story