コラム

「トランプ劇場」に振り回される習近平

2016年12月08日(木)17時20分

<トランプ次期大統領と台湾総統の電話会談に、中国政府は大いにうろたえた。しかも習近平は、最後の同盟国とみていたロシアからも裏切られた>

 トランプ次期米大統領と台湾の蔡英文総統が先週金曜日に電話会談したが、会話後のツイートでトランプは蔡を「The President of Taiwan」という肩書きで呼び、これが大騒ぎになった。トランプ支持で共産党シンパの中国人は目を覚まし、「トランプがどんな人間がようやく分かった。彼とわれわれは同じ船に乗っているわけではない」と、ソーシャルメディアに書き込んだ。その一方、トランプ支持でアンチ共産党の中国人は、トランプが期待外れの人物ではなかったと踊り上がって喜んだ。

【参考記事】トランプ・蔡英文電話会談は周到に準備されていた?

 中国政府はこの電話会談で大いにうろたえた。それはトランプが79年の台湾断交以来の米中関係におけるタブー、すなわち「1つの中国」を認める立場のアメリカ大統領は在任中も就任前も台湾総統と直接連絡を取らない、という慣例を打ち破ったからだ。これに対する中国外務省の対応は、大声を上げて蔡を「小細工した」と批判する一方で、アメリカへの恨み節は最小限にとどめ、影響を極力小さくしようとする、という興味深いものだった。しかし、もっと中国にバツの悪い思いをさせたのはロシアのプーチン大統領だ。プーチンはトランプを支持する姿勢を示し、蔡に電話を掛けたことを暗に評価。ロシアを最後の同盟国と見る習近平をないがしろにした。

 習近平は中国トップに就任して以来、歴代指導者たちの「韜光養晦(とうこうようかい、才能を隠して内側に力を蓄える)」という外交戦略を改め、あちこちに「出撃」してきた。強硬な態度で周辺国の反発を招く一方で、世界の独裁国家とは緊密な関係を構築。ここ数年は英語教育を減らしてロシア語教育を増やし、ロシアの文化や製品の輸入に力を入れてきた。歴史的に見て中国に最も危害を加えてきたロシアにこれでもかと好意を示し、インターネット検閲技術も輸出した。しかし習はプーチンがこの肝心な問題で彼に背を向けると思ってもいなかっただろう。今後数年間、米中ロ3カ国の関係は非常に興味深いものになる。たくさんのおもしろい「演劇」が上演されることだろう。

プロフィール

辣椒(ラージャオ、王立銘)

風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏消費者物価指数、11月速報値は前年比+2.

ビジネス

ECB、危機時の担保枠組み終了

ワールド

北朝鮮眺めつつラテ楽しむ、韓国で軍事境界線近くにス

ワールド

イランと英仏独の核協議、厳しいものに 中ロに報告へ
今、あなたにオススメ
>
MAGAZINE
特集:老けない食べ方の科学
特集:老けない食べ方の科学
2024年12月 3日号(11/26発売)

脳と体の若さを保ち、健康寿命を延ばす──最新研究に学ぶ「最強の食事法」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    BMI改善も可能? リンゴ酢の潜在力を示す研究結果
  • 2
    エスカレートする核トーク、米主要都市に落ちた場合の被害規模は想像を絶する
  • 3
    「時間制限食(TRE)」で脂肪はラクに落ちる...血糖値改善の可能性も【最新研究】
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    リュックサックが更年期に大きな効果あり...軍隊式ト…
  • 6
    ペットの犬がヒョウに襲われ...監視カメラが記録した…
  • 7
    ウクライナ前線での試験運用にも成功、戦争を変える…
  • 8
    バルト海の海底ケーブル切断は中国船の破壊工作か
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    谷間が丸出し、下は穿かず? 母になったヘイリー・ビ…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳からでも間に合う【最新研究】
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 6
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    リュックサックが更年期に大きな効果あり...軍隊式ト…
  • 9
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 10
    BMI改善も可能? リンゴ酢の潜在力を示す研究結果
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story