コラム

自国を守る「防護壁」の北朝鮮に利用される中国

2016年09月14日(水)19時20分

<中国共産党はこれまで北朝鮮を対アメリカの「防護壁」と見なしてきたが、金正恩が戦争の準備を進めていることで、逆に中国が北朝鮮の「防護壁」になってしまった>

 北朝鮮の金正恩政権は、核実験とミサイル発射で絶え間なく東アジアの秩序に挑戦してきた。北朝鮮の核兵器とミサイル技術の成熟に伴い、韓国は国防上の必要性からついにアメリカの地上配備型迎撃システムTHAAD配備の受け入れを決めたが、それに最も強く反応したのは中国だった。

 昨年9月、中国共産党は北京で盛大な軍事パレードを開催したが、そこで公開されたさまざまな射程の新型ミサイルはその後、ネット上で「東風宅急便」と呼ばれ始めた(「東風」は中国製ミサイルの名前だ)。ポータルサイト新浪の軍事ページのある記事は、射程距離ごとに東風15Bを「台北便」、東風21を「東京便」、東風31を「ハワイ便」、東風5を「ニューヨーク便」と命名。愛国主義者たちはキラキラ輝くこういった武器が次々パレードに登場するのを見て、「宅急便」と名付けることもうれしくてたまらず、熱烈な反応を示した。

 しかし韓国のTHAAD配備によって、アメリカは中国に近い地域で中国のミサイル発射を監視・抑制できるようになる。昨年ひけらかした「東風宅急便」がアメリカへの脅しにならないとなれば、中国共産党が強く反応するのは予想されたことだった。共産党のコントロール下にあるメディアは韓国を激しく批判、脅迫し、韓流スターはテレビや映画への出演を禁じられた。有名なPSYも、放送中だったテレビの娯楽番組の中でモザイクをかけられてしまった。

 そして北朝鮮は先週、中朝国境地区で再び地下核実験を行った。今回の推定爆発規模は20~30キロトンで、爆発地点は中国からわずか60キロの場所だ。揺れが強烈だったので、吉林省のいくつか学校は生徒を緊急避難させた。

 中国共産党は伝統的思考法として、北朝鮮を一貫して自国の戦略的防護壁と見なしてきた。もしアメリカが韓国による朝鮮半島統一を支持すれば、米軍は中国との国境に到達し、北京を脅かす。ところが金正恩がまるで狂ったように戦争準備を進めれば進めるほど、逆に中国が北朝鮮の戦略的防護壁になってしまった。中国共産党は北朝鮮の核実験に対して非常に不満を持っているが、それよりTHAADの存在をもっと不満に思っている。中国共産党の戦略の中で、アメリカは何と言っても一番の敵だからだ。

 北朝鮮がミサイル発射と核実験を繰り返し、中国の軍事力は東シナ海と南シナ海に進出。中国は北朝鮮を支持して、ロシアが「新冷戦」の陣営形成を黙認する。その一方で韓国と日本はやむなくアメリカとさらに接近し、日本は自国の安全のため憲法改正、さらにはTHAAD導入を考慮せざるをえなくなる――。東アジアの未来はまったく楽観できない、と私は思う。

プロフィール

辣椒(ラージャオ、王立銘)

風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

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