コラム

人権派弁護士を迫害する共産党の「自己矛盾」

2015年05月25日(月)11時59分

pepper0526.jpg

 中国の有名弁護士である浦志強は、89年の天安門事件で広場でのハンストに参加した1人だ。彼はかつて、さまざまな事件の調査に参加し、何度も中国の警察に逮捕された。去年の天安門事件記念日の1カ月前の夜、25周年を迎えた事件の検討会に参加して再度逮捕されたが、共産党政府は彼に当てはめることのできるぴったりの罪名を見つけるため、再三にわたって起訴を延期し、1年後になって北京市人民検察院がようやく、マイクロブログの微博で民族間の恨みを煽り、他人を侮辱し、社会秩序を破壊した――という罪名で彼を起訴した。

 近年、私が見るところでは共産党当局は弁護士と記者に打撃を与えるため、「宣伝マシン」をフル稼働。人民が彼らに対してマイナスのイメージを持つよう中傷し、ひどい場合は逮捕して刑務所にぶち込んでいる。中国は記者の拘束数が最も多い国家だが、きっと弁護士の拘束数も最多ではないだろうか。アメリカや日本のような民主国家では、法律家は国家の基礎で、新聞記者は政治家に対するチェック・アンド・バランス機能を担っている。浦志強の直面する事態は、共産党が統治する中国が法律のいらない国であることを示している。彼らは法律をオモチャにしているだけなのだ。ここ数年、共産党が絶えず強調している「党の指導の下、法に依って国を治める」という言葉がある。このようにまったく矛盾した話を、彼らは恥ずかしげもなく言い続けている。

「双規」は、もともと「『規定の場所』で『規定の時間」に取り調べを受ける」という意味の言葉だ。共産党内部で法律に基づかず人身の自由を制限し、隔離・審査する制度である。ほとんどの共産党員は裁判所で審理される以前にこの「双規」にかけられる。「双規」されている期間中、拘束された党員はまったく法律的な援助を受けることができず、弁護士に会うこともできない。常に肉体的な虐待を受け、厳しい取り調べで苦痛から死に至ることもある。だがたとえ「双規」事件の取り調べ中にそういった違法なことが起きようとも、共産党のあらゆる階層の党員は弁護士に対する迫害をやめない。そのもっとも有名なケースは、文化大革命の時に発生した。かつては毛沢東が別の人間を迫害するのを助けていたナンバー2の劉少奇は、こう語っていた。

「われわれの法律は自分自身を取り締まるための法律でなく、敵を取り締まり、打撃を与え消滅させるための法律だ」

 皮肉なことに、劉少奇は自分自身も紅衛兵に批判され、絶望の淵で「中華人民共和国憲法」を振りかざして自分を守ろうとした。しかしその時、彼を助ける人間は誰もいなかった。

<次ページ、中国語原文>

プロフィール

辣椒(ラージャオ、王立銘)

風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日本製鉄、山陽特殊製鋼を完全子会社に 1株2750

ワールド

ノルウェーで欧州懐疑派政党が政権離脱、閣僚の半数近

ビジネス

日経平均は小幅に3日続伸、方向感欠く 個別物色は活

ビジネス

午後3時のドルは154円台を上下、トランプ関税や日
今、あなたにオススメ
>
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 6
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 7
    「やっぱりかわいい」10年ぶり復帰のキャメロン・デ…
  • 8
    フジテレビ局員の「公益通報」だったのか...スポーツ…
  • 9
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 10
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 9
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 10
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 5
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story