Picture Power

【写真特集】シリア内戦、10年目の絶望と救い

FRAGMENTS OF A DECADE

Photographs by SYRIAN PHOTOGRAPHERS

2021年04月17日(土)14時40分

シリア北西部イドリブ県マーラトミスリンの避難民キャンプでテントの外で眠る男性(2020年7月)©OMAR HAJ KADOUR/AFP

<シリアの現状を記録する写真家たちは、内戦の犠牲者であり、生存者でもある>

2021年3月15日、シリアは内戦勃発から10年を迎えた。多大な犠牲者を出し、何百万人もの市民が故郷を追われた。悲しいことに、これは現在進行形の話だ。

私たちシリア人の写真家は、国連人道問題調整事務所(OCHA)のシャーロット・キャンズの心ある提案によって、内戦の悲劇を記録する機会を得た。私たちは写真家だが、内戦の一部であり、犠牲者であり、生存者でもある。それぞれの地域でカメラに収められた作品の集合体を通じて、シリア国民の団結を見せたい。

手書きのキャプションと写真は、世界が忘れんとする紛争への入り口だ。

<冒頭写真のキャプション>

text01.jpg

オマール・ハジ・カドゥール
この10年、星空を見上げることなんてなかった。だから昨年の夏、私は破壊された町の上に輝く星々を避難民キャンプから見上げて驚いた。この光景は、神によってつくられた世界と、人がつくり出す2つの世界があるという考えを思い出させた。そう、子供だった頃、ちゃんと屋根がある家の中で眠っていた頃に感じたことを。写真の男性は、神のつくった星々に照らされることで、暑さや人間の作った不便なテント暮らしから救われている。


ppsyria02.jpg

イドリブにある実家が空爆で破壊され家族を失った兄弟が互いを抱き締め合う(2020年)©GHAITH ALSAYED

text02.jpg

ガイス・アルサイード
内戦が始まる前、私は世界的なサッカー選手になることを夢見る中学生だった。写真は、趣味程度のものだった。それでも周囲は私をこう呼んだものだ。「わが写真家の友人」と。17歳になった頃、シリア全土に反政府デモが広がった。運動が高まるにつれて、私は目の前で起きていることを記録する情熱に駆られた。そうして2015年、私はフォトジャーナリストになり、地元や国際的なメディアで仕事をしている。

空爆を取材するときはいつも、街を破壊したミサイル爆弾によって殺された兄弟のアマールを思い出す。ある時、空爆を受けたサルミンの町に取材へ出向いた。爆撃を受けた場所に広がっていたのは、日常的に繰り返されている、おなじみの光景だった。建物が瓦礫になり、人々は恐怖に涙する──アマールが殺された時の私と同じ気持ちだ。

悲嘆に暮れる人々にレンズを向けるときには、彼らがどんな反応を見せるだろうかと、いつも不安になる。でも私がこの写真を撮ったとき、彼らは驚くほど運命と宿命を受け止めていた。私に近づいてくると、家族を失ったことに泣き伏しながらも、何が起きたのかを真摯に語ってくれた。その時、私の脳裏にはアマールが殺された時の光景が思い出された。いつもは流すまいとしている涙を抑えることができなかった。子供や肉親を失った彼らの痛みに触れるのはつらい。でも彼らが見せた、生存者としてこれからを生きていく信念のような思いが私を強くした。同じ光景が繰り返され、いつ終わるとも知れないけれど。


ppsyria03.jpg

水道管が破壊されたため爆発で開いた穴にたまる水を直接飲む少年(アレッポ、2013年6月)©MUZAFFAR SALMAN

text03.jpg

ムザファ・サルマン
この写真は2013年、内戦下で壊滅的な打撃を受けたシリア北部の街、アレッポの現実を伝えようとロイターを通じて発表した。非現実的な写真だという批判もあった。こんな少年の姿をさらすよりも、彼にきれいな水を与えるべきだったという意見もあった。現実を拒絶するこうした声が出たのには、いくつかの理由があったと思う。政治的イデオロギーの違いからだったかもしれない。あるいは、自らの力のなさを痛感し絶望の思いから発せられた声だったのかもしれない。

だが現実に目を向けずして、どうして問題が解決できるだろうか。現実を変えることは現実を見ることから始まると信じている。そして、それは高い倫理観を携えた記録写真と、それらを撮る写真家が提供してくれる。現実を変えたいのか、画像だけ変えればいいのか。どちらが重要なのか、問うまでもないだろう。

ppsyria04.jpg

政府軍と反政府軍の戦いで破壊されたアパートの部屋に残る結婚式の写真(ホムス、2014年)©CAROLE ALFARAH

text04.jpg

キャロル・アルファラ
何が起きたの? 私の記憶はおぼろげだ...... この国に暮らしたことなどなかったと思うほどに、全ての美しい思い出を失った気持ちだ 死体の臭いが街中にあふれている 目を閉じれば、徒労感と、抑圧と、プライドが刻まれた人々の 顔が浮かぶ 私たちは、全てを失った...... 死者、負傷者、寡婦、孤児、強制と自発的な避難民、行方不明者......全てはただの数字にまとめられていく 私たちは、全てを失った...... この場所はもはや私たちの場所ではなく、たたえる表情も私たちの表情ではない 私たちが有していた物も記憶も、全て破壊された 母国で異邦人となり、母国は異邦人であふれている 私たちは、全てを失った...... 残されたのは、裸にされた魂、街中にあふれる墓、乾いた涙、廃墟となった街、平和に飢えた心──そして、写真に収められた記憶。それは愛する母国で起きた、人類の恥ずべき行為の証左として歴史に刻まれる

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トランプ関税巡る市場の懸念後退 猶予期間設定で発動

ビジネス

米経済に「スタグフレーション」リスク=セントルイス

ビジネス

金、今年10度目の最高値更新 貿易戦争への懸念で安

ビジネス

アトランタ連銀総裁、年内0.5%利下げ予想 広範な
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 5
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 6
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 7
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 8
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 9
    トランプ政権の外圧で「欧州経済は回復」、日本経済…
  • 10
    ロシアは既に窮地にある...西側がなぜか「見て見ぬふ…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 5
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 6
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    週に75分の「早歩き」で寿命は2年延びる...スーパー…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 6
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 7
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story