Picture Power

【写真特集】シリア内戦、10年目の絶望と救い

FRAGMENTS OF A DECADE

Photographs by SYRIAN PHOTOGRAPHERS

2021年04月17日(土)14時40分

ppsyria05.jpg

ダマスカス郊外の破壊された自宅で夫とコーヒーを飲むウンム・ムハンマド(2017年3月)©SAMEER AL-DOUMY/AFP

text05.jpg

サミール・アル・ドウミー
戦時下の私にとって、写真は「精神分析医」だった。怒りや悲しみを表現するために、気持ちの全てを写真にぶつけた。みんなと同じように、私も恐怖を感じていた。カメラのファインダーをひたすら見つめ続けることで、目の前の衝撃から逃れようとしたが、無駄だった。

私にとって、シリアは単なる「白か黒か」の世界ではない。渦中の人々は恐ろしい戦争の被害に苦しみながらも、全力でそれに抵抗している。

私の写真では、戦争の別の側面に光を当てようとした。戦時下の人々の暮らしと、戦争が彼らに与える影響。戦争の心理的・物理的影響に人々はどう対処しているか、どうやって耐え抜き、抵抗し、生き延びようとしているか。

ウンム・ムハンマドは、私が出会ったなかで最も特別な人の1人だ。彼女は重傷を負い、回復したと思ったら、夫が空爆で負傷して歩けなくなった。2人が暮らす(首都ダマスカス郊外の)東グータ地区は包囲されているため、別の場所に住む子供たちに会うこともできない。夫の世話と家事を1人で背負わされたが、それでも諦めなかった。彼女の夫への愛は、何よりも大きかった。

ウンム・ムハンマドの抵抗──困難で過酷な状況を生き抜こうとする決意と誠実さは、真のシリア人を象徴していると思う。彼らの命に対する愛と、死と破壊に囲まれながらも困難を乗り越えようとする強固な意志を。


ppsyria06.jpg

東グータ地区の地下シェルターで子供たちのために料理をする母親たち(2018年)©ANAS ALKHARBOUTLI

texct06.jpg

アナス・アルハルブートリー
この写真は、ある女性からシェルターの状況を知りたいと言われて撮影した。(政府軍の)包囲と空爆で疲弊した東グータ地区の全住民の状態を象徴する1枚だ。この女性たちは怯えた子供たちの空腹を紛らわせるため、雑草を調理していた。最低限の人権のかけらさえ、ここにはない。

全ては恐怖に支配されていた。いつ建物が倒壊するか、いつ自分が死亡者リストに載せられるか、誰にも分からない。

撮影中、救援ボランティアがやって来て、1人にカップ1杯分の大麦を配ってくれたが、それだけでは幼い子供の空腹を満たすこともできない。子供たちの表情や母親の様子を見ていると、彼らは私のカメラが今の状態を変えられると思っているようだ。私が写真を公開すれば、生き延びる助けになるのではないかと。しかし、彼らは知らない。今は世界が人権という名のスローガンをうたうだけの時代だということを。

彼らがどうなったのか、私には分からない。まだ生きているのか、強制的に家を追われた人たちなのか。

しかし、確信していることもある。この写真は彼らの悲劇を記録した唯一の証人であり、永遠にそのことを語り続ける、ということだ。


ppsyria07.jpg

停戦合意の成立後、イドリブの南にある故郷のバルユーン村に戻る避難民の家族(2020年)©ALI HAJ SULEIMAN

text07.jpg

アリ・ハッジ・スレイマン
2011年、私は12歳だった。ダマスカスに住んでいて、人々を助ける医者になるのが夢だった。13年、父が逮捕され、私は家族と一緒に父の出身地である(北西部の)イドリブに戻った。私は勉強をやめ、家族を助けるために働き始めた。

1年後の14年、私はある団体で写真資料を整理するようになった。そして17年、カメラを手に取り、シリア人の苦しみと民間人に対する人権侵害を記録するメディアの一員に加わることを決意した。

この写真は20年、イドリブの南に位置するバルユーンという村で、(周辺地域一帯の)停戦合意が成立した後に帰宅した家族を撮影したものだ。このときの私は、悲しみと喜びが入り交じった複雑な心境だった。喜びを感じたのは、家に戻れた人々の幸せそうな様子を見たから。悲しかったのは、私自身は故郷のわが家にまだ戻れないからだ。

<本誌2021年4月6日号掲載>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ゴールドマン、24年の北海ブレント価格は平均80ド

ビジネス

日経平均は3日ぶり反発、エヌビディア決算無難通過で

ワールド

米天然ガス生産、24年は微減へ 25年は増加見通し

ワールド

ロシアが北朝鮮に対空ミサイル提供、韓国政府高官が指
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story