コラム

新生活の門出にパックンが贈る「ビーカーの尿、バイアグラ、厚切りジェイソン」の教訓

2024年04月04日(木)20時05分

学生のみなさん、「ホワイトボード教」に陥っていませんか? AI GENERATED ART BY NEWSWEEK JAPAN VIA STABLE DIFFUSION

<春から新生活を送る人たちに向け、芸人のパックンがアメリカ仕込みのコミュニケーションのコツを伝授します>

新卒で就職する皆さんへ!

新生活の門出だ。キャンパスや校舎には通わなくなるが、これからが本当の学びの旅のスタートだ。どんな姿勢、心構えで新しい道程に挑戦するべきか、この僕が教えよう! なぜなら......僕のコラムだから。

まずは、学習のスタンスを変えよう。学生のときは、知らないといけない情報はとにかく分かりやすい形で伝わってきた。教科書に載る、先生が教える、ホワイトボードに書かれる......。「これを覚えなさい!」と言われるのを待つ受動態で十分だった。

ちなみに、日本の学生はホワイトボードに書いてあるものを反射的にメモることを、僕は先生として実感したことがある。ある日、ちょっと遅刻して教室に入ったとき、学生たちがすでにノートに何かを書き込んでいた。何だろう?と思って見たら、前の授業の先生がホワイトボードを消し忘れたため、みんな細胞の組織を一生懸命ノートに写していた。僕の授業は国際関係論なのに!

新卒の皆さんも、こんな習性をこれまでの教育で頭に叩き込まれたのかもしれない。しかし、これからそれは通用しないよ。人生には教科書がない(ホワイトボードも)。今からは大事な情報は自ら率先して集めないといけないのだ。

まず大事なのが観察力だ。

「尿」を舐めた先生が伝えたかったのは

余談だが、僕が高校2年生のときにあった、ちょっぴり気持ち悪い話をさせてください。化学の先生がクラスの前に立ち「科学の勉強には、なにより観察力が大事だ!」と言いながら、黄色い液体の入ったビーカーを取り出す。どう見ても尿だ。え?何?あれ、先生の?と、思春期真最中の僕らはざわついた。

「人間には五感がある。全部使って、この液体は何なのか解明してみよう」と、先生は続ける。「やり方をお見せするからよく見てください。次は君たちにもやってもらうから」と言い、ビーカーを少し回しながら中身を見て、音も聞いた。そして匂いを嗅いだ。次に、指を突っ込んで感触を確認し、最後に......指をなめた。

Oh No! というより、オーニョー!と、何人かの悲鳴が上がった。「では、君たちの番だ」と先生がビーカーを差し出してくるとみんな「いやいやいやいや!」と拒絶反応。

そこで先生が本当の教訓を示した。「君たちはちゃんと観察していなかったんだね。もう一回やるからちゃんと見て」と言い、ゆっくりと動作を繰り返した。見た。聞いた。嗅いだ。そして、指を突っ込んで......違う指をなめた!!

なるほど。われわれは同じ指だと思い込んでいたのだ。そして、その思い込みがわれわれの情報収集を妨げていた。先入観、バイアスの危険性を知らせる、大事な「実験」だった。

ちなみに、最後に先生はビーカーの液体を飲みほした。たぶんアップルジュースだった。たぶん。

とにかく、思い込みに気をつけながら、ものごとをしっかり見よう。See something!ここから全てが始まるのだ。何かを見た。何かに気づいた。そうしたら次はSay something. 何か言って、自分が気づいたことを人にシェアしよう。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 8
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story