コラム

日本で「外国人を見た目で判断する」ことの弊害が噴出中

2024年03月16日(土)20時28分

ちなみに、入管法によって日本に在留する外国人は旅券または許可書(在留カード)を常時携帯しないといけないのだ。永住権のある僕でも毎日持ち歩いている。そして、警察官、入国管理や役所の方など「権限ある官憲」に提示を求められた場合、応じる義務もある。僕も職務質問(普通に道を歩いているときにされた)などで見せたことは何回かある。

しかし、在留カードは原則として当局以外の一般の方が提示を求めるものではないし、見せるものでもない。ホテルで要求されたときは、健康診断じゃないのに突然、検尿を求められたような、妙な感覚だった。

3回目にまた違うホテルで同じことがあったとき、提示を要求する理由を聞いた。そのホテルは警察にそうするように言われたと教えてくれた。そうか......と、在留カードを見せ、チェックインした。

そして、近くの交番に聞きに行ったら、やっと理由が明らかになった!

テロ対策だ。ほっ。テロリストに見えているわけね。なるほど......。納得!納得!

遅ればせながら、僕はちゃんと調べた。確かにテロへの意識が高まっていた時代に法律が改正され、2005年以降、ホテルなど宿泊施設は来日客のパスポートのコピーを取るように求められているのだ。だから(なぜか法改正から18年経ってから初めて)僕も提示を要求されているのだ。

そもそも見かけで判断するのは不可能

しかし、法律では「日本国内に住所を有しない外国人」のみが対象だと記されている。厚生労働省のホームページには、僕のように日本に住所のある人のパスポートのコピーを取る義務はホテルにないし、宿泊客は何も提示する義務もないと、はっきり書いてある。「僕のように」とは書いていないけど。

この二重基準によってホテルのスタッフはとてもかわいそうな状況に置かれている。「来日外国人」と「在日外国人」は言葉としても似ているけど、本人たちもよく似ている。見た目で判断できない。住所があるかどうか、証明書を見るしかない。しかし、それを見せる義務はないのだ。

よっし! 法律改正して在日外国人も在留カードをホテルで見せる義務を課そう! 

そう思うかもしれないが、それでも問題は解決しない。そもそも外国人かどうかも見た目で判断できないから。今の時代は「外国人っぽい」見た目の日本人も沢山いる。(日本代表のスポーツ選手だけでも何人か思い浮かぶでしょう)。彼らも僕と一緒でパスポートを持ち歩かないでしょうけど、僕と違って在留カードさえ持っていない。どちらかを見せないと泊まれないとなったら「外国人っぽい」日本人が一番困るだろう。

ちなみに、僕の子供も日本人だが、きっといつかホテルで言われるだろうね。父としてそれが一番切ないかもしれない。

同時に、「日本人っぽい」外国人も沢山いる。見た目での判断だと彼らのパスポートのコピーを取り損ねている可能性も大きい。「テロ対策」が不完全だぞ!

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

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