コラム

ジョンソン辞任、あるいはウソがもたらす予期せぬ奇跡(パックン)

2022年07月30日(土)15時40分

政治家になってからも「ウソ」が目立った。実はそれをリストアップする複数のサイトがあるぐらいだ(下記の例は主にboris-johnson-lies.comcostofjohnson.comから拾いました)。

ジョンソンはロンドン市長時代の殺人発生率、押収したナイフの数、警察の人数、減税政策、低所得者用住宅の数、などなどで実際と異なる数字を発信することが多かったが、これはだいたい在任中の自分の成績をよく見せるためだった。一方、後任のカーン市長を悪く見せるためにも、自分の自転車が市内で盗まれた! というウソもついた。でも、実は過去に「自転車がぼろすぎて、結局雨に濡れて壊れた」と説明していた。これが盗まれた ! と言った直後に発覚した。自転車をこぐ前に、下手をこいたね。

国会議員や首相になっても「ウソ」の数は減らなかった。メイ前首相の政策、警察の人数(また!)、石油のフラッキング採掘、法人税、子供の貧困率、ブレグジット(EU離脱)のメリット、犯罪率などなどについて、ウソのオンパレードだった。僕のお気に入りは病院を訪問したとき「人気取りのメディア作戦だ!」との批判を受けて「いや、ここに記者なんかいないよ」と、ジョンソンが反論した場面。記者たちの目の前で!

痴漢を与党幹部に

また、ジョンソンがイギリスの伝統食ポークパイ(豚肉が入ったパイ)の輸出に関連する誤報を発信したとき、奇跡が起きた。Pork Pieはスラングで「ウソ」という意味もあるから、メディアは「ポークパイについてのポークパイだ」と、大興奮だった。ダジャレのオチが好きな僕からみても、これはあっぱれだ!

ジョンソン本人も言葉遊びが好きなようだ。常習的に痴漢をしていた疑いがある議員を与党幹部に起用したときことだ。この件について突っ込まれたとき、痴漢疑惑のことを知らなかったとジョンソンは弁解したが、それもウソだった。しかも、ジョンソンは知っていただけでなく、この件をジョークにしていたと、彼の元側近が証言している。

ここにもミラクルが含まれていた。幹部の名字は「ピンチャー」だが、ピンチはお尻をつまむ痴漢行為にも使う単語。それをもってジョンソンは「Pincher by name, pincher by nature」(名前も、気質もピンチャーだ!)と一発かましたという。うまい!......けど、ひどい!

名字と行動がここまで奇跡的にリンクしたらジョークを言いたくなる気持ちはわかる。芸人なら衝動に負けてしまうかもしれない。でも、政治家は被害者の気持ちに配慮し我慢するべきだろう。幹部に起用することもね。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

鉱物協定巡る米の要求に変化、判断は時期尚早=ゼレン

ワールド

国際援助金減少で食糧難5800万人 国連世界食糧計

ビジネス

米国株式市場=続落、関税巡るインフレ懸念高まる テ

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、相互関税控え成長懸念高まる
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 4
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 5
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 6
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 7
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 8
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 9
    最悪失明...目の健康を脅かす「2型糖尿病」が若い世…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 7
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 8
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 9
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story