コラム

今からでも遅くない! トランプ弾劾を徹底解説

2019年11月14日(木)16時10分

―なるほど。もう1つ、トランプが望んだ捜査は?

ジョー・バイデン元副大統領とその息子のハンター・バイデンについての捜査だ。

―バイデンは民主党の有力候補として、来年の大統領選挙に向けて活動中ですね。何についての捜査ですか?

オバマ政権時に、副大統領だったパパ・バイデンがウクライナの検事総長を解雇するように当時のウクライナ政府に圧力をかけたことについてだ。当時、バイデンの息子がウクライナのある会社の役員を務めていたが、パパ・バイデンは、バイデン・ジュニアの会社に対する捜査を阻止するために、検察の解雇を求めたのではないかと......。

―え? 副大統領がそんなことをやったら、調べてもらって当然でしょう?

もちろん。やったらね。でも、やっている証拠はない。まず、例の検事総長は汚職で有名で、彼の解雇はバイデン個人の要求ではなく、アメリカ政府のほかイギリス、EU、IMF 、ウクライナ国内の団体など、多方面から求められていたことだ。そして、バイデン・ジュニアの会社への捜査は彼が役員になる前に既に終了していた 。その会社の汚職疑惑もあったが、バイデン・パパは検事総長を交代させて、むしろその会社へ新たな捜査をするように促していたという。アメリカの外交筋もウクライナ政府も、政府監視団体も、調査した地元新聞などもバイデンの不正を否定している。

―じゃあ、トランプはなんで調べてほしいと?

それは、本人に......。

―聞かないと分かりませんね。はい。推測でいうと?

政敵のバイデンをつぶすのに便利だからだと思われる。「ジョー・バイデンは息子の会社を調べる検察官を解雇するなら10億ドルを渡すと、ウクライナ政府に約束した」と言えたら、選挙に有利だと思っているのは間違いない。

―何でそう言い切れるのですか? 本人に......。

聞いていないよ! でも、トランプ選挙陣営は実際にそんな内容の広告をフェイスブックに流して いる。根拠がなくても、お金を払ってでも言いふらしたいことだから、それを裏付ける「捜査」があればどんだけうれしいか。そんな気持ちでウクライナ政府に働きかけたと推測される。

―じゃあ、「バイデンが自己利益のために公金をもってウクライナ政府に圧力をかけた」と、主張したいトランプが自己利益のために、公金をもってウクライナ政府に圧力をかけた。そういう疑いですね。

その通り!

―頭が痛くなってきました。

ここまでが背景だよ。これからが弾劾の話のスタートだ。今年1月からトランプは、顧問弁護士のルディ・ジュリアーニやゴードン・ソンドランド駐EU大使などを通して、またはゼレンスキー大統領との電話会談で直接、「軍事支援や首脳会談」と「捜査開始」の取引を目指していたとされる。しかし、それは内部告発によって8月に初めて噂になり、9月にその告発書が開示されたことで明るみにでた。下院は9月末に調査を正式に開始し、司法委員会で関係者の事情聴取を行った。そして、国民が直接証言を聞ける公聴会が今月13日からやっと始まった。これが本当のスタートだ。

―これからの流れはどうなりますか?

公聴会を経て、おそらく年内に下院で弾劾訴追案が可決される見込みだ。これが書類送検に当たるもの。そして、来年頭に上院で弾劾裁判が始まるはず。これが本当のスタートだ。

―本当のスタートが多すぎませんか?

というか、上院での裁判の結果をもって来年の大統領選挙に突入するから、それが本当のスタート!

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザで戦争犯罪容

ビジネス

米中古住宅販売、10月は3.4%増の396万戸 

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、4
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story