コラム

今からでも遅くない! トランプ弾劾を徹底解説

2019年11月14日(木)16時10分

13日に始まった弾劾調査の公聴会は全米に生中継されている Jim Lo Scalzo/Pool/REUTERS

<今までまったく注目して来なかった人にでもわかる、パックンの弾劾解説一問一答>

アメリカ史上4回目の大統領弾劾調査が本格化してきた。まったく注目してこなかった人でも、この壮大な政治劇についていけるように分かりやすく説明しよう。さらに分かりやすくするため、今回は質疑応答形式で書くことにする。

◇ ◇ ◇


―ドナルド・トランプ大統領は何か悪いことをしたのですか?

それは断言できないが、大統領になる前の「前科」を全部無視して、当選後で決着がついたものだけに限っていうと、「トランプ大学」の詐欺で2500万ドルの和解金を払い、「トランプ財団」の資金不正流用で、200万ドルの罰金を命じられているのは間違いない。

―決着がついていないものもあるということですね?

はい。トランプ関連の疑惑は山ほどある。一番有名なのはロシアによる2016年の米大統領選挙への介入の教唆や助長、そしてそれを調べる捜査への司法妨害。これらはロバート・ムラー特別検察官が報告したものでもあるが、下院で関連の捜査が続いている。そのほかに、民事裁判中のものや、FBIや地方検察、下院の複数の委員会などで捜査中のものある。その一部だけを挙げると、偽証の教唆、性的暴行、名誉棄損、選挙法違反、就任式資金の不正流用、外国からの政治献金、外国からの報酬、脱税、保険やローン申請関係の虚偽報告、不法移民の雇用、などなど 。最近のアイドルグループのメンバーなみに数が多すぎて覚えられない。

―ほ! で、どれが今回の弾劾の的になりますか?

どれも! 上記のものは少し絡んでくるかもしれないが、弾劾調査の対象はまた別の問題行為。

―だったら、そこから説明を始めればよかったのでは?

長い助走だったね。失敬! 弾劾のきっかけとなったのは、トランプ大統領がアメリカからの軍事支援や首脳会談と引き換えに、政治目的で自分に有利な捜査を開始するようウクライナ政府に圧力をかけた疑惑だ。

―詳しく教えてください。

よろこんで! まず、ウクライナのクリミア半島が2014年にロシアに強引に併合されてから、ウクライナ政府は東部でロシアが支援する武装勢力と戦っている。そのため、ウクライナはアメリカからの武器や支援金を――想像すると気持ち悪い表現でいうと――喉から手が出るほど欲しい。

―喉から手が出たら、確かに気持ち悪いですね。

そんなウクライナに対して、アメリカ上下両院は400億円以上の軍事支援を決定したが、トランプ大統領はそれにストップをかけた。

―なんで?

政治目的で自分に有利な捜査を開始して欲しかったからって、さっき言ったろ? ちゃんと読みなさいよ!

―ちゃんと読んでいます! その捜査とは具体的に何ですか?

主に2つ。まず、「ロシアによる2016年の米大統領選挙への介入」というのは、本当はウクライナによる介入だったが、ロシアにその濡れ衣を着せた! という可能性を調べてほしかったようだ 。

―初めて聞きましたが、そんな説はありますか?

ないに等しい。ネトウヨの間で流行っているが、超マイナーな陰謀説だ。CIAやFBI、国土安全保障省など、17もの機関がロシアによる介入で間違いないと報告している。

―じゃ、トランプはなんでそれをウクライナに調べてほしい?

それは本人に聞かないと分からないが、「自分の当選はロシアによる介入のおかげだった」という印象を払拭したいからとか、ロシアへの経済制裁を緩和する口実が欲しいからなどと、推測される。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米とウクライナ、和平案を「更新・改良」 協議継続へ

ビジネス

FRBの金融政策は適切、12月利下げに慎重=ボスト

ビジネス

米経済全体の景気後退リスクない、政府閉鎖で110億

ワールド

アングル:労災被害者の韓国大統領、産業現場での事故
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナゾ仕様」...「ここじゃできない!」
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 5
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    【銘柄】いま注目のフィンテック企業、ソーファイ・…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 10
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story