コラム

ベネズエラ式「マドゥロ・ダイエット」って何?

2019年02月02日(土)14時15分

国旗を振って集まった支持者を鼓舞するマドゥロ(1月23日、カラカス) Miraflores Palace/REUTERS

<政情混乱のベネズエラをめぐり、アメリカとロシアの対立が激化。その陰で、ベネズエラ国民はますますやせていく......>

ちょっと正月太りが気になる方、いま話題のやせ方を紹介しよう! その名も「マドゥロ・ダイエット」! なんと、これに挑戦した64%もの人がやせることに成功している。しかも、1人あたり平均で11キロ以上も減量している! なんといっても、やり方はとてもシンプル。1年間ベネズエラで暮らすだけなのだ!!

冗談に聞こえるが、これは本当の話だ。ニコラス・マドゥロが大統領に就任する前年はプラス5.6%だったベネズエラのGDP成長率はこの6年間でマイナス18%に転落。さらに、政府の収入の9割を占める石油の価格下落が続く中でも、前任のウゴ・チャベス大統領の時代に始まった「ばら撒き」を続けるために政府が紙幣を刷りまくり、ハイパーインフレーションを起こした。IMFは1000万%越えのインフレ率を予想している。トイレットペーパーを1個買うのに260万ボリバルもかかる。むしろボリバルでお尻を拭いた方が安い。

ボリバルの価値がないため、輸入はほぼ止まっている。しかも、石油価格が高かったころは食料品や生活必需品などを大量に輸入していたため、国内の農業、製造業が衰えてしまった。その上、政府は商品の価格統制をしていたから企業の収入が途絶え、生産の資金もなくなった。今や、お店の棚に品物がなく、お金があっても買うものがない。

結果、ベネズエラ人の生活水準は急落し、満足に食べられない人がほとんど。冒頭の数字は2017年のものだが、16年でも「マドゥロ・ダイエット」で国民の74%が、1人当たり平均で8キロ以上やせているという。リバウンドの心配なし!

いや、喜んでいる場合ではない。実は国民の体重だけではなく、国民の数も減っている。人口の1割にあたる約300万人ものベネズエラ人が外国へ逃げ出しているという。

そんななか、大幅な前倒しで昨年5月に強行された大統領選挙では、世論調査が野党候補の勝利を示していたのにマドゥロが再選を果たした。国民は本当にマドゥロ政権の6年延長を願ったのだろうか。みんなモデル体系を目指しているのか? 

というより、不正選挙だったのではないか? そう判断して、アメリカ、イギリスなどの国々は選挙の結果を認めなかった。反政府デモも起きたが、マドゥロ大統領はなんとかしのげそうだった。しかし先月、国会議長のフアン・グアイドが、正当に選ばれた大統領が不在だとして、憲法の決まりによって自分が大統領になると宣言した。よっ! ダブル大統領!

もちろん、マドゥロは身をひかないし、依然立場は強い。選挙管理委員会も最高裁も軍もマドゥロに付いているのだ。特に大事なのは軍。マドゥロは将軍を内閣に入れ、食料配布機関や石油会社のトップに据えているし、昨年夏に1万6900人の「忠実な軍人」を昇進させたことで軍の支持を固めている。さらに、政権交代が実現したら軍は汚職や人権侵害などの罪に問われる可能性が高いため、執拗に現政権を守るはず。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口の中」を公開した女性、命を救ったものとは?
  • 3
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが「竹建築」の可能性に挑む理由
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 6
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 7
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    日本では起こりえなかった「交渉の決裂」...言葉に宿…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story