コラム

サイコロを振って北朝鮮問題を考える(前編)

2017年04月27日(木)18時30分

一旦戦闘が始まれば様々な不確定要素に左右される PonyWang-iStock.

<北朝鮮への先制攻撃を辞さない構えを見せる米軍。その成否の可能性をサイコロを使った「ウォーゲーム/机上演習」で考えよう>

サイコロを持って、北朝鮮問題を考えよう。
 
ペンス米副大統領が日本を訪問し、繰り返し強硬な発言で北朝鮮を牽制した。原子力空母カールビンソンが方向転換をして北朝鮮近海に向かっている。米政府は「すべての選択肢がテーブルの上にある」と公言して武力行使も辞さない姿勢を強調しており、先制攻撃をする可能性が1994年以来最も高い。さて、なんで「今でしょ!」?

一番シンプルな説明は"トランプ非常識説"だ。ロシアの選挙操作疑惑、側近のスキャンダル、オバマケア(医療保険制度改革)廃止案や入国禁止令の失敗などなどで叩かれっぱなしのドナルド・トランプ大統領はシリアへの空爆やアフガニスタンでの最強爆弾(MOAB)投下で、就任してから初めて評価されたのだ。

バカの一つ覚えで、低迷する支持率を回復するために北朝鮮への先制攻撃に踏み切るはず。それが非常識人としてのやり方だろう――これはアンチトランプの仲間からよく聞く陰謀説だが、僕はこれだけで議論を片付けたくない。

国際関係理論とは、行為主体がそれぞれの自己利益のために合理的に動く前提で考えるもの。北朝鮮が金正恩政権の存続のためにミサイルや核を開発し続けるのも、中国が北朝鮮の崩壊や朝鮮半島の統一を防ぐために石油の輸出を止めないのも、合理的な判断と考えられる。

正しいとは言わないが、その言動の理由を理解できる。普段からいくら非常識っぽいトランプ政権であっても合理的な計算の下で動くはずだという前提で、先制攻撃を推進する側の主張を、反対する側が理解する努力は大事だ。

そのために役立つのはサイコロ。

軍事アナリストや戦略家は他国が持っている選択枝を考え、それぞれの行動が選ばれる確率を推測したうえで、自国の行動とその結果をシミュレーションするのだ。このプロセスはよくウォーゲーム(War Game/机上演習)と呼ばれる。ゲームといっても国民の命がかかる政策につながる、とても深刻な精査方法でもある。

今回はサイコロを手に、ちょっとしたウォーゲームごっこで先制攻撃の意味を探ろう。

【参考記事】北朝鮮危機のさなか、米空軍がICBM発射実験

まず、先制攻撃の成否を考える。もちろん、さまざまなやり方や狙いは考えられる。北朝鮮が報復攻撃できないほど、移動式ミサイルなども含めて軍の施設を徹底的に破壊する大規模な攻撃もあれば、先日のシリア爆撃と同じような小規模の攻撃もありうる。

ここでは後者のほうに絞って考えよう。これは正確かつ限定的な攻撃をすることで、民間人の被害を少なくし、金正恩に「報復攻撃をしない」という選択肢を残すことを意味する。「核やミサイルの開発は許さない」と意思表示をしながら、政権の存続も許し、戦争を避けるのが理想的な落としどころとなる。

では、その作戦が成功するためにはどのような条件が揃わなければならないのか。

◆北朝鮮のミサイル発射や核実験の場所が衛星写真などで把握できる
◆そのターゲットを巡航ミサイルなどで正確に攻撃できる
◆(これが一番きわどいところだけれども)攻撃を受けても報復攻撃をしないことを、金正恩が選択する
◆攻撃後に、金正恩政権が崩壊したり、権力争いや内紛に陥ったりすることなく、核兵器や核物質をしっかり管理できる状態を保つ
◆今後、北朝鮮がミサイルや核の開発を放棄する

こういった条件が揃ったら、成功どころか、大成功とみなしていいでしょう。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、4

ビジネス

ECB、12月にも利下げ余地 段階的な緩和必要=キ

ワールド

イスラエルとヒズボラ、激しい応戦継続 米の停戦交渉

ワールド

ロシア、中距離弾道ミサイル発射と米当局者 ウクライ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story