コラム

美味しすぎてマズイ、ふるさと納税のカラクリ

2016年02月02日(火)16時37分

何万種類もの景品から好きなものを選べるし、ふるさと納税最高!……で本当に良いのか AlexRaths-iStock., FutoshiHamaguchi-iStock., monticelllo-iStock., Chrisho-iStock. (clockwise from top)

 年末年始は帰省した? 久しぶりに懐かしい街をみて、「お世話になったな~、何か恩返ししたいな~、でもあまりお金をかけられないな~」と思った人もいるかもしれない。そんな人に、超お勧めのオカシな制度がある。はい! それは「ふるさと納税」だ。

 たびたびメディアで紹介されているふるさと納税だが、ほとんどの場合、ちやほやされているだけ。制度の本当の効果については検討されていない。その深いところまでを、ここできちんと考えてみよう。

 ふるさと納税の仕組みは簡単だ。好きな自治体に寄付をすると2000円が自己負担になり、残りの額は次の年の住民税や所得税から控除されるというもの。例えば東京在住のPさんが福井県に10万円を寄付したら、翌年度の税負担が9万8000円安くなる。つまり、2000円だけの負担で福井に10万円分の寄付ができるってこと。

「ちょっと待って! 2000円も? いやだね~」と思うかもしれないが、大丈夫! ふるさと納税制度では寄付先の自治体から豪華な景品がもらえる。損はしない。食べ物、電化製品、宿泊券などなど、寄付先によって景品は変わるが、どれも基本的に2000円相当以上の素敵なものばかり。しかも、収入によって上限はあるが、寄付額が大きければ大きいほど景品が豪華になるので、損どころか大得だ。例えば、16万円を寄付すると羽毛布団が、21万円でパソコンが、60万円でバイクがもらえる。思い切って350万円を寄付すれば牛一頭がもらえるよ。わっ、飼いきれない!

 何万種類もの景品から好きなものも選べるし、同時に複数の自治体に寄付できる。そしてどんなに寄付しても自己負担が2000円! 残りは税金の控除で戻ってくる。つまり牛は無理でも、2000円でバイクがもらえる! 最高じゃん! しかも、財政難で苦しんでいる自治体にどんどん寄付金が集まっている。地方創生のためにも最高じゃん!

【参考記事】行き過ぎた「食の安全」志向から、もっとゆるい食文化へ

 はい、ここまでが一般的な取り上げ方。ではもう少し突っ込んでみよう。例えば東京のPさんが2000円の自己負担で30万円相当のバイクを手に入れることができたとしよう。もちろん、Pさんは大喜び。60万円の寄付金をもらった自治体も大喜び。バイクを作ったメーカーも大喜び。しかし、Pさんが住んでいる東京は大泣きなはず。翌年の税金免除で国や、東京都、居住する市区町村の税収が59万8000円減ってしまうのだ。言ってみれば日本と東京が59万8000円をかけてPさんに30万円相当のバイクをプレゼントしてくれたことになる。よっ、太っ腹!

 人口が集中して地方より平均収入が高い東京は、ふるさと納税で損する一方のはず。現時点でふるさと納税の控除で東京都の税収は20億円弱のマイナスといわれる。この先もっと多くの方がふるさと納税をするようになれば、都の損失は数千億円に上るという試算もある。都の税収が減れば、都民に対する公的サービスの水準が下がらないはずはない。同じレベルのサービスを保つために、いずれは都民に対する税率を上げざるを得ない日がくるかもしれない。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、トランプ関税発表控え神経質

ワールド

英仏・ウクライナの軍トップ、数日内に会合へ=英報道

ビジネス

米国株式市場=S&P500・ダウ反発、大幅安から切

ビジネス

米利下げ時期「物価動向次第」、関税の影響懸念=リッ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story