コラム

イタリア映画界で異彩を放つ女性監督の新作『墓泥棒と失われた女神』

2024年07月18日(木)18時14分

しかし、そんな彼の前に、『夏をゆく人々』のマルティンのように、イタリアという人物が現れる。彼女は、ロルヴァケルの独自の視点が反映されたような人物だといえる。

ベニアミーナの母親フローラの古びた屋敷に転がり込み、元歌手のフローラから歌のレッスンを受ける代わりに、彼女の身の周りの世話をし、彼女に内緒でふたりの子供をそこに住まわせている。イタリアという名前でありながら、ブラジル出身の女優カロル・ドゥアルテが演じ、子供たちとはポルトガル語で会話をする。

アーサーとイタリアという異邦人が出会い、ユーモラスな手話を編み出すなどして、接近していく。アーサーは、『夏をゆく人々』のジェルソミーナが仮装した女神を見て魔法にかかるように、自分が発見した美しい女神像に魅入られるが、そんなイタリアとの関係を通して像が持つ意味が大きく変わり、呪縛を解かれていくことになる。

『墓泥棒と失われた女神』
7月19日(金)Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開
©2023 tempesta srl, Ad Vitam Production, Amka Films Productions, Arte France Cinéma

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プロフィール

大場正明

評論家。
1957年、神奈川県生まれ。中央大学法学部卒。「CDジャーナル」、「宝島」、「キネマ旬報」などに寄稿。「週刊朝日」の映画星取表を担当中。著書・編著書は『サバービアの憂鬱——アメリカン・ファミリーの光と影』(東京書籍)、『CineLesson15 アメリカ映画主義』(フィルムアート社)、『90年代アメリカ映画100』(芸術新聞社)など。趣味は登山、温泉・霊場巡り、写真。
ホームページ/ブログは、“crisscross”“楽土慢遊”“Into the Wild 2.0”

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