コラム

韓国通貨危機の裏側を赤裸々に暴く 『国家が破産する日』

2019年11月07日(木)15時45分

あれから何が変わって何が変わっていないのか...... 『国家が破産する日』(C) 2018 ZIP CINEMA, CJ ENM CORPORATION, ALL RIGHTS RESERVED

<1997年、韓国の通貨危機が起きるまでの7日間。現在から通貨危機を見直すことによって、その後の韓国社会にとっての意味を浮かび上がらせる......>

1997年に起きた韓国の通貨危機を題材にしたチェ・グクヒ監督『国家が破産する日』では、冒頭から一刻を争う緊迫感に満ちたドラマが繰り広げられていく。

物語が始まるのは1997年11月15日。韓国銀行の通貨対策チームの報告からわかるように、大手企業が続けて不渡りを出したことから国際的な信用力が低下し、外国資本が撤退を始める。政府は外貨準備金を投入してウォンの下落を防いでいるが、外貨準備高は危機的な水準にあり、試算ではデフォルト(債務不履行)まで一週間の猶予しかない。

そんな状況から、為替レートと外貨準備高の推移をにらみながらの7日間のドラマが展開していく。ただし、リアルなドラマではあるが、冒頭に「本作品は史実に基づきますが、フィクションとして再構成されています」という前置きがあるように、当時を再現し、何が起きていたのかを検証しようとする作品ではないことは頭に入れておくべきだろう。

韓国銀行通貨政策チーム長と財務局次官の対立

本作では、3つの物語が絡み合うような構成で、異なる視点から通貨危機が描き出される。

ひとつは、韓国銀行の通貨政策チームの女性チーム長ハン・シヒョンと財務局次官のパク・デヨンが、対策をめぐって激しい対立を繰り広げていく物語。ハンは、国民に危機を知らせるべきだと主張するが、パクは、混乱を招くだけだと譲らず、非公開とすることに決まる。そのパクは、密かに財閥の御曹司と会い、情報を提供している。

もうひとつは、高麗総合金融というノンバンクの金融コンサルタント、ユン・ジョンハクの物語。彼は、海外からの投資のデータやラジオで耳にした中小企業の窮状から危機を察知する。退職したユンは、彼の熱弁に心を動かされたふたりの顧客から資金を調達し、ウォンと株の暴落に賭ける。

そして最後に、食器工場の経営者ガプスの物語。彼のもとにミドパ百貨店からの大量注文という願ってもない話が舞い込む。現金取引を原則にしていた彼は、手形決済という条件に戸惑うが、契約を結んでしまう。だがその数日後、ミドパ百貨店が不渡りを出す寸前というニュースが流れる。

「大統領選挙前に経済危機を発表すれば野党に批判のネタを与える」

そんな構成のなかで重要な位置を占めているのはやはり最初の物語だが、そこに話を進める前にいくつか確認しておくべきエピソードがある。

通貨政策チーム長ハンの報告を受けて急遽招集された金融危機の対策チームは、金泳三大統領に事態を報告に行く。彼らを迎えた秘書は、大統領が気分を害されていると伝える。大統領が見入るテレビでは、大統領の次男が保釈されたニュースが流れている。次男の金賢哲は斡旋収賄で逮捕され、大統領もダメージをこうむっていた。

プロフィール

大場正明

評論家。
1957年、神奈川県生まれ。中央大学法学部卒。「CDジャーナル」、「宝島」、「キネマ旬報」などに寄稿。「週刊朝日」の映画星取表を担当中。著書・編著書は『サバービアの憂鬱——アメリカン・ファミリーの光と影』(東京書籍)、『CineLesson15 アメリカ映画主義』(フィルムアート社)、『90年代アメリカ映画100』(芸術新聞社)など。趣味は登山、温泉・霊場巡り、写真。
ホームページ/ブログは、“crisscross”“楽土慢遊”“Into the Wild 2.0”

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、5月中旬にサウジ訪問を計画 2期目初の

ワールド

イスタンブールで野党主催の数十万人デモ、市長逮捕に

ワールド

トランプ大統領、3期目目指す可能性否定せず 「方法

ワールド

ウクライナ東部ハリコフにロシア無人機攻撃、2人死亡
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 9
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 10
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story