2本のドキュメンタリー映画で写真の可能性を考える
ブラジル出身の写真家セバスチャン・サルガドは、40年にわたって戦争、難民、虐殺など、世界の過酷な現実と向き合い、壮大なスケールで浮き彫りにしてきた。サルガドのファンを自認するヴィム・ヴェンダースとサルガドの息子ジュリアーノ・リベイロが共同で監督したドキュメンタリー『セバスチャン・サルガド / 地球へのラブレター』では、生い立ちから写真家としての変遷、家族、そして故郷の森林を再生させる活動まで、サルガドの足跡が多面的に描き出される。
アフリカのサヘルの飢饉やルワンダの大虐殺といった過去の作品については、写真と当時の状況を語るサルガドの姿が重ねられる。さらにこのドキュメンタリーの撮影時には、「ジェネシス」という新たなプロジェクトが進行している。それはダーウィンの足取りを辿ることをコンセプトにしたプロジェクトで、地球上に残された秘境に分け入るサルガドをカメラが追いかける。
ここで思い出しておきたいのは、サルガドの作風には批判もあるということだ。モノクロを基調とした彼の作品には荘厳な美しさがある。そのため人々の苦しみをアートとして表現していると批判されてきた。
また、スーザン・ソンタグは『他者の苦痛へのまなざし』のなかで、移住者をテーマにした90年代後半のサルガドの作品群について、原因も種類も異なる悲惨を移住でひとまとめにしている点を問題にし、「苦しみや不幸はあまりに巨大で、あまりに根が深く、あまりに壮大なので、地域的な政治的介入によってそれを変えることは不可能だと、人々に感じさせる」と書いている。こうした批判は、報道写真とアートの違いを前提にしている。
このドキュメンタリーは、そうしたことも踏まえて観るとより興味深いものになる。サルガドはもともと経済学を専攻し、博士号を取得しているのでグローバルな視点を持っている。彼は農場育ちで大地に愛着を持ち、亡命も経験しているため同様の立場にある人間に共感を覚える。だから時間をかけて被写体と生活や状況を共有し、野生動物を前にすれば同じ動物になろうとする。
そんな背景があるからこそ、壮大なスケールと虐げられた個人の尊厳が際立つ写真を撮る。サルガドの独自の世界は、報道写真とアートという枠組みで単純に割り切ることはできないが、弱者の立場や視点から歴史を振り返り、地球の未来を想像してみるとき、重要な意味を持つことになる。
【映画情報】
『セバスチャン・サルガド/地球へのラブレター』
8月1日Bunkamuraル・シネマ他にて全国公開
監督:ヴィム・ヴェンダース、ジュリアーノ・リベイロ・サルガド
©Sebastião Salgado ©Donata Wenders ©Sara Rangel ©Juliano Ribeiro Salgado
《参照/引用文献》『他者の苦痛へのまなざし』スーザン・ソンタグ 北條文緒訳(みすず書房)
■謎の天才女性写真家の発見とその生涯に迫るドキュメンタリー
そしてもう1本、『ヴィヴィアン・マイヤーを探して』も、まったく違った意味で写真とアートについて考えさせる興味深いドキュメンタリーだ。物語は2007年、シカゴ在住のジョン・マルーフという若者が、近所のオークションハウスで大量の古い写真のネガを手に入れたことから始まる。写真の価値を判断しかねた彼が、その一部をブログにアップしたところ思わぬ反響があり、熱狂的な賛辞が寄せられた。ところが、撮影者の名前ヴィヴィアン・マイヤーをネットで検索しても一件もヒットしない。
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