コラム

自民党総裁選に決定的に欠けているもの

2020年09月13日(日)16時35分

自民党総裁選の討論を聞いたら世界の中でも日本の政治家は最底辺  Charly Triballeau/REUTERS

<自民党総裁候補の討論をじっくり見たが、将来のために大きなデザインを描いて社会を設計する能動的な発想がない。起こったことへの対処に汲々とするだけだ>

終わっている。

自民党総裁選挙の討論会をテレビで見た。
2時間、じっくりと見た。
そして、唖然とした。

日本にとっても、世界にとっても、最重要なことはまったく議論されないどころか、触れられもせずに、くだらない政治評論家と菅氏の漫才のような雑談で議論は終わった。

これでは、世界の政治も滅茶苦茶だが、日本の政治はその終わっている世界の政治の中でも、最底辺の政治だと言われても仕方がない。

最重要なこととは何か。

世界のリーダーとしての最重要イシューのひとつは、環境問題、地球温暖化問題だ。

これにまったく言及がない。

一番問題なのは、時代遅れの政党の時代遅れの政治家たちの討論なら仕方がないが、今回は、日本を代表して質問する、政治評論家、ジャーナリストが、誰もこの問題に触れないことだ。この討論会の結果を報じる新聞にも、環境問題が議論されなかったことの指摘すらない。

この国は終わっている。

ダム利用法を変えたのが自慢

世界のリーダーになるためには、世界の問題についての考え、スタンスが問われる。それを何も具体的に議論せず、あなたには外交経験があるかないか、というような痴話喧嘩だけしている。

さらに重要なことは、国民の問題意識は、そこにあるにもかかわらず、ということだ。今、大雨、熱中症、これら国民の直面する目先の最大の問題であるにも関わらず、だ。

そして、もっとも絶望的にならざるを得ないのは、彼らは、この問題に対応していると胸を張って思っているように見受けられることだ。

菅氏は、大雨に対して洪水の被害を最小限にするために、ダムの利用を柔軟にしたことを主張している。彼のひとつの勲章のようだ。農水省、国交省、経産省と管轄が分かれていたダムを、その縦割りの弊害を自分のリードで取っ払った。それで災害を減少させた。こういうことらしい。

この点は、石破氏と論争になった。石破氏は防災省の設置を主張し、菅氏は、それは無駄で、結局、緊急事態のときは、総理の下、すべての省庁が結集し、防災省は必要ないどころか、邪魔になると反論した。しかし、防災省は、事前の準備、長期にわたって国家を災害に強くするための準備のものだから(はずであるあから)、緊急事態の議論は関係ない、と石破氏は反論するかと思っていたら、何もなかった。不思議だ。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米イーベイ、第2四半期売上高見通しが予想下回る 主

ビジネス

米連邦通信委、ファーウェイなどの無線機器認証関与を

ワールド

コロンビア、イスラエルと国交断絶 大統領はガザ攻撃

ワールド

米共和党の保守強硬派議員、共和下院議長解任動議の投
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 9

    パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因

  • 10

    大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなア…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 9

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story