コラム

消費刺激は不要、それどころか社会に危機をもたらす

2020年03月31日(火)14時55分

そのために必要なことは何か。コロナショック後、景気を回復することではない。もう一度、医療制度、医療体制を見直し、様々な感染症リスク、それによって波及的に広がるもっと広い意味での医療リスクに対処するために体制を整えておくことだ。そのためには、カネがいる。景気対策につかうカネがあるなら、医療制度への建て直しにつかうべきだ。

日本の財政が逼迫している理由は何か。年金、医療である。年金は財政的には厳しい状況だが、どのようなことが起きていて、これから何が起きるのか。概ね予想がつく。経済がどうなろうが、運用成績がどうであろうが、これまで給付されてきたような水準の年金給付は望めず、財源がひたすら足りないということだ。少ない年金で我慢するか、増税を受け入れるか、誰がもらって誰が払うかの配分の変更はできても、絶対的にパイが不足することは明らかで、逆にいえばそれだけのことだ。

病気なら診てもらえる医療を守れ

一方、医療は異なる。制度設計によって大きく変わってくる。必要なときにだけ病院に行き、そして、必要なときには必ず病院に行けるようにすること。マッサージに保険適用するのではなく、困っている人が命に関わるときに完全に保険適用にする。医師のインセンティブ、投薬のインセンティブを適性に設計し直し、無駄な医師や製薬会社の努力をなくし、適性な所得を医師が得られるようにする。生命に関わる病気や日常生活に困る病気に対して適正な医療を努力して提供している医師や病院がそれに見合った報酬を得られるようにする。原則は迷いようがないが、実施が難しく、デザインの努力とそれを現場で実施する努力にカネと手間と時間と人員を惜しまず投入する。

これは非常に難しい。そして、カネがいる。移行するときには特にカネがいる。そのために財源は取っておくべきなのだ。

景気対策などで無駄に使うべきではない。

さらに重要なことは、今議論されている景気対策は、経済だけのことを考えても、さらに景気だけのことを考えても無駄であり、180度間違っている。前にも述べたが、何度でも言おう。

コロナショックで消費が落ち込んでいるから消費喚起をする。100%間違いだ。

コロナショックで外出自粛、すべてのことが自粛。ここで消費喚起のためにカネを配っても仕方がない。消費できないから消費が落ち込んでいるので、カネがないから消費しないのではない。そこへカネを配っても無意味だ。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

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