コラム

消費刺激は不要、それどころか社会に危機をもたらす

2020年03月31日(火)14時55分

消費は外出自粛で落ち込んでいるだけ。自粛で仕事が蒸発した人や企業にこそ支援が必要だ(写真は人通りが消えた東京のアメ横、3月29日) Issei Kato-REUTERS

<日本政府が議論している景気対策は財源の無駄遣いで将来に大きな禍根を残す。それより、米伊の二の舞にならないよう医療体制を拡充し、コロナ失業やコロナ倒産を救うことに資源を集中投下すべきだ>

何度でもいうが、政府の経済対策は間違いだ。

考え方が180度間違っている。

景気対策は要らない。それどころか、景気対策をすることこそが社会を陥れるリスクを高める。景気対策が行われることこそが危機なのだ。

足元で最も重要なことは何か。新型肺炎による死者の増大、それを含めた医療崩壊、これを防止することだ。

そのために景気対策は何の役にも立たない。それどころか社会を危機にさらす。どうやって? 財政危機によってだ。

イタリアはなぜ世界一悲惨な状況となったか。国民皆医療保険制度があるにもかかわらず、財政を立て直すために、医療を財政的に切りまくってきたからである。

米国の危機とは何か。病院危機、医療危機である。人々は何を叫んでいるのか。ここは途上国か? 世界一豊な国アメリカで、なぜこんなことが起きているのか? あり得ない──。

アメリカは豊かな国などではない

いや、あり得る。米国は世界一どころか豊な国でも何でもないからだ。金融資産保有とその市場は世界一だが、社会的に問題の多い国、それが米国だ。公的医療保険が先進国でほぼ唯一皆保険でない国だ。金持ちへの高度な高額医療は存在するが、基本的な医療を効率よくできるだけ多くの人々に行き渡らせる、ということにおいては、先進国最低レベルであろう。

イギリスで危機が広がっているのも、医療に対する財政支援を大きく削減したからだ。ドイツが危機対応に成功しているのは、財政的に磐石であり、かつ国民、社会、政治が慎重な国だからだ。

韓国、日本は、新型肺炎危機が世界に報道されたとき、中国の外ではもっとも危険な国であり、困難に直面すると思われた。ところが、少なくとも今のところ、欧米よりは危機対応に成功している。医療制度がましだからだ。

イタリアの医師や米国の医師は、日本の医師以上に献身的に奮闘しているように見える。しかし、彼らは守られていない。医療従事者ですら1週間に1つのマスクで治療を行っているニューヨーク。50名の医師の命が失われたイタリア。彼らはすばらしい。医師の能力、気力の問題では解決できない、制度の問題、財政の問題なのだ。

では、日本に今必要なことは何か。医療崩壊を防ぐことである。それは「今のところ」大丈夫そうだ。「今のところ」とはどういう意味か。今後、医療崩壊が起こるリスクが高まる懸念があるからだ。

SARS(重症急性呼吸器症候群)、MERS(中東呼吸器症候群)、新型インフルエンザ、そして新型コロナウイルス。次々と新しい感染症が登場してくる。新型コロナは21世紀最大の感染症の危機か? まだ分からないが、普通に考えると、ノーだ。これからまだまだ、異なる形、異なる分野での感染症のリスクに人類は晒されるだろう。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダック上昇、トランプ関税

ワールド

USTR、一部の国に対する一律関税案策定 20%下

ビジネス

米自動車販売、第1四半期は増加 トランプ関税控えS

ビジネス

NY外為市場=円が上昇、米「相互関税」への警戒で安
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story