コラム

米国株と日本株の非連動

2018年04月11日(水)10時20分

今週は12時間ごとに株価の方向感が変わった(写真は4月10日のニューヨーク証券取引所) Brendan McDermid-REUTERS

<これまで常に連動してきた日米株価の動きが乖離し始めたのはなぜか。いくつかの仮説を検証する>

この10年、常に連動してきたが、ここにきて、月曜の夜の米国、火曜の昼の日本、火曜の夜の米国。どれも方向感が全く違う。どういうことか。

私は、日本市場がノイズで、日本市場を無視すべきだと書いたが、他に2つ仮説がある。

乱高下が激しすぎて、12時間の違いはまったく別の市場となるから、時差が違いをもたらしている、というのが一つの仮説。12時間前は株は上がったが、今は上がっていない。12時間前は米国株市場が開き、今は日本市場が開いている。それだけのこと。という説だ。

この説は論理的にはまったく正しいし、現実にも合っている可能性がある。そうなると、12時間で市場の方向感が一変するという現象が、なぜ、今急に起きたのか、ということが問題になる。

もう一つの仮説は、日本で影響を与えているトレーダーと米国で影響を与えているトレーダーが別の主体になった、ということである。これがもっとも本質的な仮説だと思うが、そうなると、なぜ急に今、そうなったのか、という問題が残る。

簡単なのは、日本では日銀が特殊な買い手、ということになるが、GPIFだろうが日銀だろうが、特殊な買い手が居たとしても、彼らが居ることを前提に米国のトレーダーは仕掛けてくるから、これは今、なぜ急に米国トレーダーが米国と同じ流れで仕掛けなくなったのか、という問題がある。

この2つとも成立していて、その奥に、この2つの動きをもたらしている真のひとつの要因がある、ということになれば、学校の授業や論文の仮説としては劇的かつ美しいが、実際はどうか。

ファンダメンタルズに回帰

ひとつのつまらない仮説は、米国の影響力が落ちてきて、米国市場で上がったから下がったからと言って、他の国の市場が連動するとは限らない、と多くの投資家が(米国の投資家でも日本の投資家でも欧州勢であっても)思うようになれば、それ以外のことは何の変化がなくとも連動しなくなる、ということはありうる。そして、私は、現状を説明するには、この説が正しいと思っている。

なぜ米国の影響力が落ちたか。

それはまたつまらない話で、金融政策が株を動かす特殊な時代が終り、またトランプがどんなに騒ごうとも、政治あるいは政策が市場を動かすこともなくなり、個別の企業の事情が株価を動かす、という普通のファンダメンタルズで決まる、という世界に戻ったからではないか。

そして、急にファンダメンタルズに戻ったのは、いまやアマゾンの未来が世界中の企業の未来に影響を与えるから、アマゾンの動きはFEDの動きよりも影響力がある、という事業会社、数社の企業が世界経済に(というよりは株式市場か)影響を与えるようになったからだ、ということだ。

意外と普通の話だが、重要な話だ。

行動ファイナンスは役に立たない、普通の平常時に戻っているのだ。

*この記事は「小幡績PhDの行動ファイナンス投資日記」からの転載です

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

フジ・メディアHD、業績下方修正 フジテレビの広告

ビジネス

武田薬、通期の営業益3440億円に上方修正 市場予

ビジネス

ドイツ銀行、第4四半期は予想以上の減益 コスト削減

ビジネス

キヤノン、メディカル事業で1651億円減損 前12
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 3
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? 専門家たちの見解
  • 4
    トランプのウクライナ戦争終結案、リーク情報が本当…
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 7
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 8
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 9
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 10
    フジテレビ局員の「公益通報」だったのか...スポーツ…
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    日鉄「逆転勝利」のチャンスはここにあり――アメリカ…
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
  • 7
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 8
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 9
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 10
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 7
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 8
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 9
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 10
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story