コラム

追加緩和は絶対にない

2015年10月28日(水)15時56分

日銀の黒田総裁には、様々な利害関係者の憶測がついて回る Issei Kato-REUTERS

 ──なぜか。

 必要ないからである。

 なぜ必要ないか。日本経済に何の変化もないからである。

 日本経済が不測の事態に陥れば、あるいは、リーマンショックのような危機が起これば、追加緩和はありうるだろう。ただ、そのような場合には、現状の大規模緩和の追加ではなく、まったく新次元の(異次元から新次元へ行くと元の次元に戻るかどうかは興味深いが今日は議論しない)金融政策となるだろう。

 だから、追加緩和、現在の異次元緩和の延長線上の追加緩和、昨年10月のような緩和は永遠にないのである。

 それは、一般的に議論されているような、もう国債を買いすぎて買えるタマがない、などというテクニカルな問題ではない。また、国内メディアが邪推しているような、官邸がこれ以上の円安を望んでいない、というような政治的な理由でもない。ゴルゴ13に描かれたように黒田東彦総裁の提案が秘密裏に政策決定会合で否決されたからでもない。

肝心なのはデフレマインドを払拭すること

 黒田総裁は信念の人である。彼が、追加緩和をする理由はただひとつ。日本経済にとって必要かどうかである。前回の緩和で三流メディアが書き立てた消費税率引き上げのための援護射撃など絶対にしない。いわんや、古巣の財務省に頼まれたからなどということはあり得ない。彼は、財務省財務官当時から、尊敬されていたが、孤独だった。それは信念のために、インディペンデントだったのであり、孤立とは違う。孤高のインテリ官僚なのである。

 したがって、今回も、日銀総裁として、自分が必要だと信じる任務を遂行するだけのことである。その任務とは、日本経済を順調に発展させることであり、そのために必要なのは、デフレマインドを完全に払拭することである、と彼は信じているのである。これは、私は個人的に意見を異にするが、そんなことは、ここでは関係ない。

 デフレマインドを完全に払拭する、というのを裏から言えば(本当は表から言えば)、期待インフレを維持する、ということである。

 昨年10月末の追加緩和は、まさに、期待インフレ率が上昇して、緩やかに2%に近づく流れが止まる、あるいは壊れるリスクがあったので、思い切って追加緩和をして、その流れを止めないようにしたのであり、それが理由のすべてである。この時は、消費税率8%への引き上げ後の景気上昇の減速が背景にあるところへ、原油価格が大幅に下落して、実際のインフレ率が低下してきた。これが継続する、あるいはさらに進むことにより、期待インフレ率の回復機運が壊れてしまう、ということを懸念したのである。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

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