コラム

アベノミクスが雇用改善に寄与した根拠

2017年10月13日(金)16時30分

ところで、このような円高から円安への為替トレンドの転換それ自体は、黒田日銀の成立どころか、第2次安倍政権が成立する以前の、民主党政権時代の2012年9月末頃から始まっている。一部の論者は、その事実に基づいて、アベノミクス第1の矢あるいは異次元金融緩和政策は必ずしも為替の円安転換の原因ではないと論じている。

しかしながら、このように市場が「実際の政策に先んじて」動き始めるとすれば、それこそがまさに、金融政策のあり方が将来的に根本的に変わるという「政策レジーム転換」の最も明白な証拠と考えられるのである。

この期待転換の契機は、2012年9月26日に、安倍が劣勢の予想を覆して自民党総裁選に勝利したことにあった。当時の民主党政権は、それまでに失政に次ぐ失政を重ねたことで、2012年内にも行われるはずの総選挙での敗北が確実視されていた。それは、来たるべき総選挙で自民党が与党の座に返り咲くこと、そして自民党総裁に復帰した安倍がその次期政権の首班となることを意味していた。

当時、安倍が首相になった暁には、自らの権限を通じて日銀の金融政策を根本的に転換させるべく試みるであろうことは、それまでの安倍の言動から火を見るよりも明らかであった。目ざとい市場関係者たちは、この安倍の自民党総裁選勝利の時点で既に、「ゲームのルールが変わる」ことを読み切ったのである。そして、第2次安倍政権の成立と黒田日銀の成立は、彼らのその判断が正しかったこと裏付けたのである。

プロフィール

野口旭

1958年生まれ。東京大学経済学部卒業。
同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。専修大学助教授等を経て、1997年から専修大学経済学部教授。専門は国際経済、マクロ経済、経済政策。『エコノミストたちの歪んだ水晶玉』(東洋経済新報社)、『グローバル経済を学ぶ』(ちくま新書)、『経済政策形成の研究』(編著、ナカニシヤ出版)、『世界は危機を克服する―ケインズ主義2.0』(東洋経済新報社)、『アベノミクスが変えた日本経済』 (ちくま新書)、など著書多数。

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