異次元緩和からの「出口」をどう想定すべきか
福井日銀は2006年3月に、2001年3月に導入されて以来約5年間継続されていた量的緩和政策を解除した。さらに2006年7月には、短期市場金利コールレートの誘導目標を0.25%に引き上げ、伝統的金融政策に完全復帰した。その3月から7月の間に、当時の量的緩和政策の目標とされていた日銀当座預金残高は、33兆円程度から10兆円程度まで圧縮された。
福井日銀はこのように、コールレートの引き上げのために、短期間に急激なテーパリング、すなわち量的緩和の巻き戻しを行った。しかし、金融市場はその間も、きわめて平静に保たれていた。
この福井日銀による量的緩和解除は、その後の推移から判断すれば、日本経済がデフレ脱却を実現し損なう原因となったという意味で、明らかに時期尚早であり、政策としては完全な失敗であった。とはいえ、それは少なくとも実務的には、何の困難や問題を引き起こすことなく、あっけないほど円滑に実現されていたのである。この事実は、「出口」のおどろおどろしさを強調しようとする一部の議論への解毒剤として、十分に強調されるべきである。
FRBによるバランスシートを維持しながらの出口
量的緩和からの出口のもう一つの実例は、米FRBによって2015年12月に実行された、短期市場金利フェデラルファンドレートの引き上げである。FRBが量的緩和第3弾であるQE3を終了したのは、2014年10月である。FRBはそれ以降、政策金利であるフェデラルファンドレート引き上げのための下準備として、ベースマネーを縮小させるテーパリングに着手し始めた。
しかしながら、FRBのテーパリングは福井日銀のそれとは異なり、きわめてゆっくりとしたペースで行われた。そして、そのテーパリングは結局、「フェデラルファンドレートがその下限から離れて自然に上昇していく」ところまで行われることはなかった。FRBはそれをするかわりに、「金融機関が中央銀行に対して持つ準備預金の超過部分に対する付利の引き上げ」という手段を用いて、フェデラルファンドレートの引き上げを実現させたのである。
銀行等の金融機関は通常、日々の決済や政府への支払いのために、中央銀行に預金を持っている。日本の場合には、日銀当座預金がそれである。その中央銀行預金のうち、法的に義務付けられた法定準備預金額を超える部分は、超過準備と呼ばれる。その超過準備に対して中央銀行が支払う利子が付利である。
中央銀行は、その付利を引き上げることによって、政策金利である短期市場金利を引き上げることができる。それは、短期市場金利が中央銀行預金への付利を下回るのなら、金融機関は余剰資金を短期金融市場で運用するよりは中央銀行に預けたままにしておくはずだからである。そうなれば、金融機関が短期金融市場で借り入れを行う場合には、必ず中央銀行への付利以上の金利を支払わなければならなくなる。結果として、中央銀行が付利を引き上げれば、短期市場金利はそれにつれて、少なくともその付利の率までは上がっていくことになるのである。
FRBが政策金利の引き上げに際して、福井日銀のような一気呵成のバランスシート圧縮を行わなかったのは、金融市場の安定に配慮してのことである。FRBが「フェデラルファンドレートが自然に上昇していく」ところまでバランスシート圧縮を行うためには、おそらくは保有資産全体の4分の3以上を売却してベースマネーを吸収しなければならない。FRBの持つ最大の保有資産は国債であるから、もしそのような資産売却を短期間に行えば、国債のリスク・プレミアムが拡大し、国債市場で長期金利が跳ね上がる恐れがある。FRBが結局、付利の引き上げという手段を用いて「バランスシートを維持しつつそれを緩やかに縮小させながらの出口」を実行することを選択したのは、その長期金利上昇リスクを嫌ったためであろう。
FRBが長期金利の急速な上昇を明らかにリスクと考えていることは、2017年以降のベースマネーの動きにも現れている。米大統領選における2016年11月のドナルド・トランプの勝利以降、アメリカの10年国債利回りは、それ以前の1.8%前後から2.5%前後まで急上昇した。FRBはおそらく、このような短期間での急激な長期金利上昇を望んではいなかった。FRBが2017年に入ってから、それまでのバランスシート縮小の方針を停止し、ベースマネーを一時的にせよ拡大させたのは、そのようにして跳ね上がった長期金利の抑制が必要と考えたためであろう。
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