コラム

トランプで世界経済はどうなるのか

2016年11月18日(金)17時30分

 おそらく、トランプの勝利後に生じたドル高円安の流れに最も安堵しているのは、「デフレ脱却」を最重要の政策課題として掲げながら、不本意にもその実現を先送りし続けてきた、日本政府や日本銀行の政策当局者たちであろう。選挙前には「トランプが勝てば円高ドル安で株安」が半ば確定的と考えられていたのだから、政府・日銀とっては、それはきわめて警戒すべき事態だったはずである。しかし幸いにも、その懸念は杞憂に終わった。政府・日銀は、この好機を逃すことなく、デフレ脱却という政策目標の達成をより確かなものにすべく、着実な政策努力を続けていくべきであろう。

【参考記事】黒田日銀の異次元金融緩和は「失敗」したのか

 もちろん、トランプノミクスの帰結に不安がまったくないわけではない。1980年代のレーガノミクスは、財政収支の赤字拡大が経常収支の赤字拡大に結びつくという、その後のアメリカ経済を特徴付ける「双子の赤字」の起点となった。そして、そのアメリカの経常収支赤字は、1990年代まで続く日米貿易摩擦の直接的な原因となった。トランプの財政刺激策が同様な「アメリカの双子の赤字拡大」をもたらすことになれば、それがトランプのもう一つの側面である反グローバリズム指向を刺激する可能性は十分ある。過去にアメリカとの貿易摩擦に巻き込まれてきた日本としては、そうした兆候への注意を怠らずにいるべきであろう。

プロフィール

野口旭

1958年生まれ。東京大学経済学部卒業。
同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。専修大学助教授等を経て、1997年から専修大学経済学部教授。専門は国際経済、マクロ経済、経済政策。『エコノミストたちの歪んだ水晶玉』(東洋経済新報社)、『グローバル経済を学ぶ』(ちくま新書)、『経済政策形成の研究』(編著、ナカニシヤ出版)、『世界は危機を克服する―ケインズ主義2.0』(東洋経済新報社)、『アベノミクスが変えた日本経済』 (ちくま新書)、など著書多数。

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