コラム

日本人が「ジャニーズの夢」から覚めるとき

2023年04月15日(土)12時21分

喜多川擴氏が生んだ「夢」

カウアン氏は会見で、「僕の願いですけど、やっぱり全員出て来た方がいいなと思っていて」と語っていた。私もその呼びかけに微力ながら勝手に「MeToo」と応えたいと思う。私の場合はそこまで深刻な被害ではないかもしれないが、性別を問わず、性暴力をなくしたいという思いは同じだ。

私は例えば20代の頃、顔馴染みになったバーで中高年の男性店主から、ある時帰り際に突然下着のなかに無理やり手を突っ込まれ、陰部を触られたことがある。冗談半分のような雰囲気だったし笑い話にしても良いようなことではあるが、不快な出来事として今も記憶に残っている。

この程度のことは、よくあることなのかもしれない。でも、だからこそ性別や程度を問わず、性被害を公表することを殊更に特別視する必要はない。

喜多川擴氏から性加害を受けた元ジャニーズJr.の人々が、すぐ声をあげるかは分からない。だが、ジャニーズ事務所の権力は全盛期に比べると明らかに低下しており、今後もその傾向は続くだろう。主力タレントの離脱が続いており、事務所の抱える問題について語ることは、以前ほどタブーではなくなったように見える。

アイドルは、夢を売る仕事と言われている。少年たちへの性加害を繰り返していた喜多川擴氏は、数多くのアイドルを生み出し、人々を夢見心地にさせる天才だったに違いない。彼の生み出した夢には、人々に希望と勇気を与える美しい夢と、卑劣でおぞましい悪夢の二つがあった。

私が小学生の時に初めて聞いたジャニーズの曲に、こんな一節があった。

夢は止まらない 何処までも――。いや、そろそろ目覚めなくてはいけないだろう。

プロフィール

西谷 格

(にしたに・ただす)
ライター。1981年、神奈川県生まれ。早稲田大学社会科学部卒。地方紙「新潟日報」記者を経てフリーランスとして活動。2009年に上海に移住、2015年まで現地から中国の現状をレポートした。著書に『ルポ 中国「潜入バイト」日記』 (小学館新書)、『ルポ デジタルチャイナ体験記』(PHP新書)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏製造業、米関税より中国製品流入を警戒=EC

ワールド

台湾、政府機関にディープシーク利用禁止要請 安全性

ワールド

アラスカLNG開発、日本が支援の可能性議論 トラン

ワールド

仏財務相、予算協議は「正しい方向」 不信任案可決の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 6
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 7
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 8
    空港で「もう一人の自分」が目の前を歩いている? …
  • 9
    トランプのウクライナ戦争終結案、リーク情報が本当…
  • 10
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 9
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 10
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story