コラム

私は油断していた......「ずっと寝たきり」を警告された新型コロナ感染者の後遺症体験記

2022年05月02日(月)09時23分

もう峠は越えた、と思ったら......

会合の途中からだるさや熱っぽさが増し、声を張っているうちに喉がかすれて声を出しにくくなった。これは危ないと思い、中座して帰宅し、すぐに床に着いた。翌日、激しい頭痛とともに目覚め、熱を測ると38度を超えていた。近くの内科で「発熱外来」を受診して抗原検査を受けると、その場でコロナ陽性が確定した。

今思うと、私は油断していた。すでに知り合いのなかにコロナ経験者が4〜5人いて、全員が「数日で完全に治った」と言っていたからだ。オミクロン株は感染力は強いものの、弱毒化していると伝えられている。持病がなく肥満体型でもない40歳の私にとっては、"ただの風邪"で終わるはずだと信じていた。味覚や嗅覚に異常は起きず、食欲もあった。

ひたすら寝続けると高熱は3日ほどで下がり、発症日から1週間も経つと、身体を動かしたいぐらいに体力も回復し、自宅で筋トレをしたりした(後から分かったが、まだ安静にすべきだった)。隔離期間を終えた3月9日には、多少のだるさと喉の違和感が残っていたものの、8割がた回復したと感じていた。いわゆる「病み上がり」の体調だった。医師の説明によると、この時点でコロナウイルスはもう存在しないという。

もう大丈夫だ、峠は越えた。そう思って、普通に仕事を始めた。家に閉じこもってばかりでは、かえって気が滅入りそうだったので、シェアオフィスに出向いてズームで打ち合わせや取材を行い、原稿執筆もした。ジョギングをしたり銭湯で汗を流したりして、心身のリフレッシュを図った。だるさと喉の違和感は、そのうち取れるだろう。そう信じて普段通りに過ごしていたが、いつまで経っても治らなかった。

この時期の私の日記には「ぐったり」「昼寝」といった言葉が頻出する。例えば、朝起きて身支度をして、洗濯や掃除、食器洗いなどの軽い家事を終わらせて家を出ようとすると、その時点で疲れ果てているのだ。ハードな一日を終えた後のような疲労感が身支度をするだけで押し寄せ、「これが倦怠感というやつか」と気がついた。

あるいは、昼食を取り終えてさあ働くかと思って店の外に出ると、強烈な眠気と疲労感に襲われ、そのまま家に帰って寝てしまうことも度々あった。今すぐ横になりたいというほどの、強烈な倦怠感だった。

良くなると信じていた喉の調子も日に日に悪化し、ついにはほとんど声が出せなくなってしまった。自分の身体が自分のものではなくなってしまったような不安に襲われたが、近所の内科医からは「もう少し様子を見ましょう」と説明を受けた。だが、どう考えてもおかしいと思い、3月25日、ネットで調べたコロナ後遺症の専門クリニックに駆けつけた。メディアの取材にもしばしば登場しており、全国でも数少ないコロナ後遺症の専門医の一人だった。

予約は1カ月近く先まで埋まっていたが、当日診療も受け付けていた。クリニックの受付では「4時間から5時間ほど待つ場合もある」と説明を受けた。ちょっとオーバーに言っているのだろうと思ったら、本当に5時間近く待った。それでも、とにかく診てもらえるだけ有り難かった。

プロフィール

西谷 格

(にしたに・ただす)
ライター。1981年、神奈川県生まれ。早稲田大学社会科学部卒。地方紙「新潟日報」記者を経てフリーランスとして活動。2009年に上海に移住、2015年まで現地から中国の現状をレポートした。著書に『ルポ 中国「潜入バイト」日記』 (小学館新書)、『ルポ デジタルチャイナ体験記』(PHP新書)など。

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