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シリーズ日本再発見

なぜ日本の音楽教室が、クラシックの本場でも受け入れられたのか

2016年07月20日(水)11時03分
西山 亨

 誰もが気軽に音楽を楽しめるような社会を実現すべく、試行錯誤の末に生まれたのが(1)総合音楽教育、(2)適期教育、(3)グループレッスンという3つの考え方だ。総合音楽教育とは、曲を「聴き」、覚えた旋律をドレミで「歌い」、次にそれを鍵盤で「弾き」、楽譜を「読む」こと。最終的には自ら曲を「作る」ことを目指す。適期教育とは、心と体の発達に合わせ、年齢に適した指導を行うというもの。特に聴覚が発達する幼児期には指導方法として聴くことを重視し、音感や基礎的音楽力を身につける素地をつくっていく。

 そして、こうした方針によるレッスンを最大10名までのグループで行うことで、子どもたちは「楽しむ」感覚で音楽に触れ、仲間との関わりの中で大きな喜びを分かち合うことができる。また、レッスンを通じて社会性や協調性が身につくなど、人としての成長を促す側面も持ち合わせているという。

 それまで日本での音楽教育といえば、良家の子女など限られた人間だけが習うもので、楽譜を読んで楽器を弾くという内容のものが多かった。ヤマハの提案した体系的な教育メソッドはそれだけ画期的であり、全国の楽器販売店の協力を得て教室はみるみる広がっていった。

 このようにして確立された"ヤマハメソッド"やノウハウは、海外でもそのまま用いられている。教材は全世界共通で、各国の言語に翻訳され、子どもたちは同じメロディを歌う。ローカライズされることなく、世界に浸透していった点もヤマハ音楽教室の大きな特徴だろう。

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東南アジアでは子どもが小さい頃から習いごとをさせたいと考える親が多く、ヤマハ音楽教室との親和性は高い。インドネシアの教室でのレッスン風景(写真提供:ヤマハ音楽振興会)

【参考記事】世界49カ国・地域にまで広まった「文化を超える」公文式

「音楽を楽しもう」が本場で認められた

 国内では急成長していったヤマハ音楽教室だが、そもそもは欧米視察からヒントを得たもの。海外では当初、反応はどうだったのだろうか。海外部の牧野さんが説明してくれた。

「開設当初は、生徒や会場の数を目標にはしていませんでした。どこでも同じ質のレッスンを受けられることが大切であり、講師の質が求めるレベルに達していなければ、広げても意味がありません。また、音楽先進国の欧米では音楽を習う場所はたくさんあります。その中で、ヤマハが自信を持って提供するレッスンで、音楽を心から楽しんでいただけるコミュニティーをつくることが重要でした。結果として、少人数であってもコアなファンを獲得できたことが大きな一歩になったと思います」

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