「書」はアートを超えた...日本を代表する「書家」石川九楊が世界で評価される理由とは
では、九楊作品の創作の原点はどこにあるのか。「書は文字ではなく言葉を書く表現」と語る九楊の信念は、書にかかわり始めて以降、変わらない。
近代以前の書史の流れを踏まえつつ、言葉と格闘し続けるなかで、前衛書の水準をはるかに凌駕し、書を時代に共鳴する世界大スケールの表現へと深化させてきた。
その九楊の全書業を一堂に会して開催する「石川九楊大全」展が2024年6月8日から「上野の森美術館」で開催される。前期【古典篇】、後期【状況篇】の二期に分け、全ての展示作品を総掛け替で行なう、かつてない大規模展覧会だ。出品点数は2000点以上から厳選した全300点に及ぶ。
中でも注目されるのが、関連イベントのコンサートだ。自ら代表作と位置付ける「歎異抄No.18」の一点一画をデータ解析し、それを電子音楽バージョンと弦楽四重奏バージョンに楽曲化するという世界初のパフォーマンスだ。
「東アジアの書は西欧アルファベット圏における音楽に相当する」と長年述べてきた、九楊の書論を実証する場として期待されている。
また、「書は文字ではなく言葉を書く表現」と九楊が語る意味は、ここで体感され、真に理解されることになろう。九楊の「書」とは「哲学」「思考」、そして「実践」であるからだ。
石川九楊(いしかわ・きゅうよう)
書家。1945年福井県生まれ。京都大学法学部卒業。京都精華大学教授、文字文明研究所所長を経て現在、同大学名誉教授。 「書は筆蝕の芸術である」ことを解き明かし、書の構造と歴史を読み解く。 制作活動のいっぽうで批評・評論家としても健筆をふるう。上梓した著作は100点以上。半世紀以上に及ぶ書業のなかで、全2000作品を世に送り出した石川九楊。その全作品を網羅した厖大なカタログ・レゾネ『石川九楊全作品集』(思文閣出版)も刊行される。
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