最新記事
シリーズ日本再発見

ふるさと納税は2年で750%増、熊本の人口4000人の町が「稼げる町」に変わった理由

2021年04月14日(水)19時50分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

情報発信によって観光客を呼び寄せる観光協会。地域にいいものを取り扱い、町内外の人が訪れる物産館。地域のいいものを取り扱い、町内と町外をつなぐこの2つの組織を統合するのは自然なことだと考えた。

まず行ったのは、赤字の事業、SMO南小国として担うべき事業とそうでない事業を見極め、ミニマム化すること。その見直しだけで、物産館は初年度から黒字化した。まるでつぶれかけの会社を立て直すときのような思い切ったマネジメントが実を結んだ。

町が自走する組織となるためには、安定した収益が必要だ。そのために手掛けたのは「ふるさと納税事業」。SMO南小国がこの事業を町から委託することで、業務委託費を町内に残せるようになった。

最も大きな成果は、ふるさと納税寄付額が大幅にアップしたことだろう。2017年度に約1億円だった南小国町の寄付額は、2019年度には約7億4000万円へと、2年で750%増となったのだ。

ふるさと納税事業は、まさに「町全体で稼ぐ」を体現する事業になった。優れた地場産品を発掘し、情報発信することで経済効果を生み出す。ふるさと納税をきっかけに、地域経済循環が回り始めているという。

SMO南小国ふるさと納税部マネージャーの小池真史氏は、本書でさらなる意気込みをこう語っている。

「いただいた寄付が第一次産業への投資に回ることも期待しています。今はコロナ禍の影響もあって、返礼品をつくっている事業者は大きな負担を背負っています。寄付額を投資に回すことによって町内の会社が新商品の開発をしやすくなれば、南小国町の事業者による返礼品の比率を上げることにもつながります」

住民の才能を見つけ、適材適所に人員を配置できた

この「奇跡」に至るまでに南小国町で行われてきた取り組みの詳細については本書に譲るが、コロナ禍にあっても、その勢いが衰えていないのは驚きだ。今では町の財政に余裕が生まれ、町独自のコロナ対策の補助金を打ち出すまでになっているという。

物産館やふるさと納税といった事業の成功は、地元住民の才能を見つけ、適材適所に人員を配置できたからこそ成し遂げられたと本書は力説する。本書には彼らの声もふんだんに盛り込まれている。

どの地域にも「あるべき姿」が必ずある。誰もがそのヒントをこの本からもらえるだろう。

南小国町の奇跡――稼げる町になるために大切なこと
 柳原秀哉 著
 CCCメディアハウス

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)


japan_banner500-season2.jpg


【話題の記事】
1970年2月、北海道でひとつの街が消滅した
「売春島」三重県にあった日本最後の「桃源郷」はいま......

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中