ふるさと納税は2年で750%増、熊本の人口4000人の町が「稼げる町」に変わった理由
「小さな町ですから、どの会合に行っても同じ顔ぶれで、同じような話ばかり。観光協会でも、目新しい方向性や取り組みがなかなか出ず、議論はマンネリ化していました」
そして、平野氏は気付く。
「観光業以外の人たちも、悩みは私たちと同じだったのです。(中略)町のさまざまな声を救い上げて、解決まで並走してくれる組織が必要だと感じ始めていました」
取り組みは、まず観光業に関わる人々に南小国町の「あるべき姿」を話し合ってもらうことから始めた。あるべき姿、つまり会社にとってのビジョンだが、地域にとっても重要だ。
柳原氏はこの「あるべき姿」を見つけるプロセスに多くの時間を割いているという。公式な場だけでなく、町に出て住民への聞き取りを重ね、集めた情報を編集し、仮説をつくる。その仮説を改めて聞き取りをしたキーパーソンにぶつけ、情報の精度を上げていく。
このプロセスを何度も繰り返すことによって、多くの可能性を見つけることができた。
「南小国には小国杉というブランド杉がある。その杉林の景観はすばらしい」
「種類はそれほど多くはないけれど、おいしい高原野菜が獲れる」
「最近、キャンプ場や農家に泊まりにくる人が増えているようだ」
「満願寺温泉には"日本一恥ずかしい露天風呂"と呼ばれる温泉がある」
それまで南小国町の観光と言えば、「黒川温泉」と「そば街道に行って蕎麦を食べること」だけと住民は考えていた。このように次なるエンジンとなりそうなものを見つけられるのも、よそ者ならではの視点があるからだろう。
前述した通り、観光業はさまざまな要因に左右されやすい業態だ。一つの柱だけに絞るのは、事業として非常に危うい。それに、町が抱える課題の解決にはならない。
南小国町の美しい景観と人々の暮らしを観光資源に変えるためには、町の農業や林業をはじめとする多くの産業が連携し、町全体で稼いでいく必要があった。見つかった「あるべき姿」は、「町全体で稼ぐ」だった。
ふるさと納税は「町全体で稼ぐ」を体現する事業に
そして観光だけでなく、地域物産も加えた「両輪」で稼ぐために、DMO「SMO南小国」は生まれた(SはSatoyamaの頭文字だ)。
柳原氏は、まず観光協会と物産館を融合する提案を行う。物産館は長年赤字を出し続けていた問題組織だ。
ただでさえ異なる組織を一緒にするだけでもハードルが高いのに、赤字続きの組織がDMOの足を引っ張るのではないか――。設立委員の中からも心配の声が上がった。
しかし柳原氏は、それぞれの組織が持つ「機能」に着目していた。