最新記事
シリーズ日本再発見

NGT48山口真帆さん暴行事件に見る非常識な「日本の謝罪文化」

2019年01月16日(水)17時25分
内村コースケ(フォトジャーナリスト)

日本の美徳「我慢」は世界の視点では「マゾヒズム」?

日本通の海外識者は、日本の「我慢の文化」との関連を指摘する。米ミドルベリー大学の日本研究者、リンダ・ホワイト准教授は、日本人の間で「我慢」の概念は最も価値が高いものだと指摘。「男性たちは、長時間労働や拷問じみたフィジカルトレーニングを続けることでこれを体現する。女性の場合は、しばしば苦難に耐えることや、虐待じみた社会的人間関係とパワー・ヒエラルキーを受け入れることで『我慢』をする」とSCMPに語っている。

ホワイト准教授はさらに、「夫から虐待されても妻は我慢しなければならない。上司が性的なことを求めれば、若い労働者は我慢しなければならない。アウトサイダーにとっては、我慢はマゾヒズムに見えるかもしれないが、日本の男女両方に非常に重視されている特性だ」と解説する。

そんな日本でも、ジャーナリストの伊藤詩織さんが声を上げたことで始まった日本独自の#metoo運動があり、女性の地位向上が図られている。しかし、米タンパ大学の日本のジェンダーの専門家、リヴ・コールマン准教授は、昨春の福田淳一財務事務次官がセクハラの告発によって辞任した件では、「クレームの声を上げた女性に対する大衆の非難も大きかった」と、日本では#metoo運動への抵抗も大きいと指摘している(SCMP)。

また、山口さんの謝罪を伝える記事には、日本の女性の地位が低いことに驚くコメントも多く寄せられている。

・おい見ろ、日本が女性を従属させている。ショッキングだ。(Mail online)
・日本よ、世界に向けて何が言いたいんだ? 男はやりたいことをなんでもできて、女性は責任を感じなければならないとでも? 最悪だ。(Mail online)
・彼女がかわいそうだ。私は2ヶ月間日本で過ごし、女性たちがいかに黙っていなければならないかと日本の友人から聞いた。日本のテクノロジーと経済は大変進んでいる。しかし、女性を尊重するということに関しては、悲しいことにその他の国と同じだ。(Mail online)
・日本のアイドル産業はとても毒されている。いかに女性たちをひどく扱っているか、もっと光を当てなければならない。(Kotaku)
・これは事実だ。文化的な影響が大きい。しかし、我々がそれを受け入れる必要はない。まるでイスラム国家のようだ。(Kotaku)

当時の責任者は雲隠れ、後任が頭を下げる

これら国内外の非難の声を受け、山口さん本人の謝罪の4日後に、NGT48を運営するAKSの幹部がメディアの前で頭を下げて謝罪した。その謝罪の言葉は、ほぼ定型通りの「ファンの皆様にご心配とご迷惑をお掛けしておりますこと、メンバーに不安な思いをさせてしまったことを改めておわび申し上げます」というものだった。

会見には、「事件をもみ消そうとし、あまつさえ本人に謝罪させた」という非難の焦点となっている前NGT劇場支配人・今村悦朗氏は姿を見せず。代わりに本件に直接関わってこなかった後任の早川麻依子氏が頭を下げた。当の今村氏は「雲隠れに違い状態になっている」(テレビ局関係者)というから、「深々と頭を下げるが誰も責任を取らない」という日本の「無意味な」謝罪文化は健在といったところか。

japan_banner500-season2.jpg

202404300507issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年4月30日/5月7日号(4月23日発売)は「世界が愛した日本アニメ30」特集。ジブリのほか、『鬼滅の刃』『AKIRA』『ドラゴンボール』『千年女優』『君の名は。』……[PLUS]北米を席巻する日本マンガ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ハマス、カイロに代表団派遣 ガザ停戦巡り4日にCI

ワールド

フランスでもガザ反戦デモ拡大、警察が校舎占拠の学生

ビジネス

NY外為市場=ドル/円3週間ぶり安値、米雇用統計受

ビジネス

米国株式市場=急上昇、利下げ観測の強まりで アップ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 7

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中