最新記事
シリーズ日本再発見

日本の小中学生も夢中のTikTokは、他のSNSより危ないのか?

2018年12月22日(土)11時25分
森田優介(本誌記者)

とはいえ、まだ対策は十分と言えないだろう。塩田も高橋も、現時点では他の多くのSNSに比べ、安全対策が「緩い」ことを指摘する。

高橋によれば、かつて「出会い系の温床」と批判されたグリーやモバゲーでは、未成年のユーザーは自分の年齢の2歳上~2歳下の年齢の人としかメッセージをやり取りできない。子供を狙う大人の「餌食」にならないようにするための措置だ。また、電話番号やメールアドレスをメッセージで送れないようにするといった対策もしているという。

LINEも対策を進めており、対応が速くなっている。例えば、誰でも閲覧できるタイムライン欄に問題のある投稿がなされると「比較的すぐに消される」ようだ。

保護者自身が無防備にSNSを使っていないか

そもそもTikTokは、生まれたときからSNSがあるような世代にとって、あまりによく出来た「楽しくて簡単な」アプリだ。

素敵な場所に行く必要も、写真映えするスイーツを食べる必要も、友達や恋人がいる必要もない。自宅で独りで撮影できるため、その気になれば誰でも投稿ができる。おまけに、フォロワーが少なくても「いいね」をもらいやすい仕組みになっており、多感な10代の承認欲求が満たされやすい。「危ないからやめろ」と言っても、彼らは聞く耳を持たないのだ(TikTokがなぜこれほど支持されているか、その分析は本誌「TikTokの衝撃」特集をご覧いただきたい)。

だからこそ大人たちは、もっと真摯に向き合なければならない。バイトダンスにはさらなる対策が求められるが、保護者と学校もそれは同様だ。

保護者自身が無防備な写真や動画をSNSに挙げていないだろうか。学校は子供たちにネットリテラシーをきちんと教えられているだろうか。

一部の保護者はまず、自らの行動を顧みるべきだろう。そして、もし子供がTikTokをどうしてもやりたいと言ってきたら、頭ごなしに「ダメ」と言うよりも「親が管理してその範囲でやらせるほうがいい」と、高橋は助言する。

「父管理」とプロフィール欄に書かれた、フォロワー数1位のひなたちゃんのようにだ。投稿する動画の内容も、届いたメッセージも、親がしっかり確認する。中学生以上になるとそこまでの管理は難しいかもしれないが、親に隠れてやる子供は、トラブルに巻き込まれたときも親に話さないかもしれない。

学校現場でもさらなる「情報モラル」教育が必要だろう。塩田はLINEと共同研究を行い、その成果として開発された「SNS東京ノート」という教材が昨年、東京都の全ての小中高校に配布された。だが、この情報モラル教育に関しては、まだ地域や学校、教師によって差があるのが実態だ。現役の小中学校教師に聞いても、TikTokがどういうものかよく知らないという人は少なくない。

変なことを言われたら無視する、初めてやり取りする人にはこんなスタンプを送らないといった、ネット上のコミュニケーションスキルが「小学生にはない」と塩田は言う。小学生にそこまで求めるのは酷なようにも思えるが、「使うのであれば、そういうスキルを身に付けなければいけない」。

必要なのは、子供たちの楽しみを奪うことではなく、安全に楽しめるよう補助してあげること。TikTokの時代になり、ネットリテラシーの重要性はますます増している。

【関連記事】TikTokとドローンのDJIは「生まれながらの世界基準」企業
【関連記事】TikTokのブレイクは「芸能人がきっかけではない」バイトダンス井藤理人氏を直撃
【関連記事】TikTokは既に「女子高生アプリではない」、自撮りできない世代も使い始めた

※12月25日号(12月18日発売)「中国発グローバルアプリ TikTokの衝撃」特集はこちらからお買い求めになれます。

japan_banner500-season2.jpg

20250121issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年1月21日号(1月15日発売)は「トランプ新政権ガイド」特集。1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響を読む


※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ガザ停戦が発効、人質名簿巡る混乱で遅延 15カ月に

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 2
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 9
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 9
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中