居酒屋不況の勝ち組「鳥貴族」のブレない信念
これを追い風に同年には出店数が100店舗を越え、仕入れなどにもスケールメリットをより一層活かせるようになる。また、厨房には炭火ではなく電気グリラーを導入するなど、効率化を推進し生産性を向上させた。出店ペースは加速度的に上がっていった。
急速に存在感を高めた鳥貴族に対し、他の居酒屋チェーンが仕掛けたのは、鳥貴族の代名詞である均一料金の導入だ。300円前後の均一料金を前面に押し出す新業態を展開し始めたのだ。2010年前後、低価格・均一料金の「居酒屋戦争」勃発はメディアにも盛んに報じられた。
「実は私自身、ニュース番組で密着取材を受けたりと騒動の真っ只中にいました。当時は弊社が東京に進出して5年ほど。ある意味、首都圏での知名度向上に役立ちました」と、山下氏は笑う。しかも、そんな他社からの攻勢にも、鳥貴族は一切の対応策を講じなかったというから驚かされる。
鳥貴族には長年培った均一料金のノウハウがあるが、そうでない他社の場合、どうしても無理が生じる。例えば、500円で提供していた商品を300円で提供するためには、質や量を低下させざるを得ない。「料理の質も高くなければお客様に満足いただけない。(低価格・高品質に対する)強い信念があったからこそ、他社の動向を気にせず、商品の質の追求だけに邁進できたのです」
それはつまり、ブレないということであり、結果としてその姿勢が鳥貴族というブランドをより強化することにつながったのだ。
ターゲットとする客層も喫煙対策もブレがない
かつて大衆的な居酒屋チェーンはサラリーマンや大学生で賑わっていた。最近では多くの居酒屋がファミリー層を取り込もうとしているが、客層という点でも、鳥貴族にはブレがない。若者が入りやすい店にすることを創業当初から掲げており、現在も20~30代のビジネスパーソンや学生がメインの客層だという(なお、男女比は半々とのこと)。
5月中旬の平日夜8時、100席を超える大型店舗である池袋北口店を訪ねてみた。エレベーターの扉が開いた瞬間、その熱気と喧騒に圧倒される。確かに20~30代の若い世代で満員で、さらには店内に3組ほどの待ち客が存在していた。居酒屋不況がウソのような光景だった。
ブレない姿勢という意味では、店内の喫煙環境も同様だ。現在、厚生労働省が2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向け、受動喫煙防止対策の強化を推進。バーや居酒屋を含む飲食店に対しても「原則建物内禁煙」の実現を目指し、与党や業界に強く働き掛けている。