最新記事
シリーズ日本再発見

活字離れの今、この「活字」と印刷の歴史資料を堪能する

2016年09月23日(金)12時55分
高野智宏

撮影:遠藤 宏(すべて)

<出版不況の今こそ訪れたい文京区の「印刷博物館」は、世界の印刷に関する歴史資料が豊富。日本で最初の銅製活字から世界最古の印刷物である「百万塔陀羅尼」、日本初の本格的な翻訳書「解体新書」まで、知の発展を支えてきた印刷文化を深く知ることができる> (写真:重要文化財の「駿河版銅活字」。朝鮮から伝来した銅活字をもとに徳川家康が造らせた日本で最初の銅製活字で、京都伏見と駿河で3度に渡り約11万本が鋳造されたが、火災などにより大半が消失。この資料を含め約3万8000本のみが現存する)

【シリーズ】日本再発見「東京のワンテーマ・ミュージアム」

 日本における出版物の販売額がピークを迎えたのが1996年のこと。奇しくもその前年には、マイクロソフトのOS「Windows95」が発売され、全世界でインターネットが爆発的に普及。この"新たな文明"の誕生に伴って、多くの無料媒体を含むウェブメディアが登場した。その影響は確実に印刷メディアにまで及び、90年代後半からいまなお続く「出版不況」の主たる要因になっていることは、ご存知のとおりだ。

 そんな、活字離れの現状にあるいまだからこそ訪れてほしい博物館がある。大手印刷会社の凸版印刷が創業100周年の記念事業として、2000年に文京区水道のトッパン小石川ビル内に設立した「印刷博物館」だ。

「それまで、世界の印刷に関する歴史や文化、技術の発展を幅広く体系的に展示する博物館は日本に存在していなかった」と、同館学芸員の石橋圭一氏は話す。それだけに同館には、印刷にまつわる貴重な資料が数多く収蔵されており、常設展だけでなく企画展にも力が入っていて見逃せない。

 地下1階と地上1階の2フロアで展開する同館。印刷の歴史を辿る旅は、地下1階から始まる。来館者をまず迎えるのが、印刷の世界へと誘う「プロローグ展示」ゾーンだ。

japan160923-1.jpg

地下1階の「プロローグ展示ゾーン」。大きく弧を描く大壁面に、紀元前に掘られた洞窟壁画からデジタル媒体まで、世界のコミュニケーションメディアが展示される。その下には、壁画や印刷物の製造行程などがミニチュア模型により再現されている

 高さ7メートル、幅はなんと40メートルにも渡って弧を描く大壁面に飾られるのは、前印刷時代の石碑や碑文をはじめ、印刷黎明期の曼荼羅や仏典、活字の登場により本組みされた聖書や古典的書物。さらには近代のポスターや雑誌に、現代の電子メディアなど、紀元前から現代にいたるヴィジュアル・コミュニケーションの歴史をシームレスに一望する圧巻の大パノラマが展開する。人類が生み出してきた情報媒体の中で印刷が果たしてきた役割を捉えようとする試みだと、石橋氏。「もちろんその大半はレプリカだが、精密に再現されており、レプリカだけに間近に寄ってご覧いただける」と、自信を覗かせる。

【参考記事】何時間でも思い出に浸れる、90年の放送史を詰め込んだミュージアム

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

スペインに緊急事態宣言、大規模停電で 原因特定でき

ワールド

ロシア、5月8から3日間の停戦を宣言 ウクライナ懐

ワールド

パキスタン国防相「インドによる侵攻差し迫る」、 カ

ワールド

BRICS外相会合、トランプ関税の対応協議 共同声
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 7
    体を治癒させる「カーニボア(肉食)ダイエット」と…
  • 8
    トランプの中国叩きは必ず行き詰まる...中国が握る半…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    【クイズ】米俳優が激白した、バットマンを演じる上…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 8
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中