最新記事
シリーズ日本再発見

日本にかつてあった「専売」、その歴史を辿る知的空間へ

2016年09月09日(金)16時30分
高野智宏

 圧巻は世界の喫煙具が展示された「世界のたばこ文化」エリアだ(冒頭の写真)。豪奢な装飾が施されたパイプ文化が花咲いたヨーロッパをはじめ、イスラム圏特有の喫煙具である水パイプ。そして、戦いか和平かを決める部族会議での重要な儀式に欠かせなかった「平和のパイプ」や、部族の長の権威を誇示するための斧を象った「トマホークパイプ」と、単なる嗜好品には留まらないネイティブ・アメリカンのパイプなど、世界各地の文化が反映され独特の発展を遂げた喫煙具の数々が目を楽しませる。

「なかでも貴重なのは、18世紀前半頃よりヨーロッパで作られ始めた、繊細で優美な彫刻が施されたメアシャム(海泡石)製のパイプ。1873年のウィーン万博に出品された文化価値の高いパイプも展示している」(袰地氏)。

 ユニークなのは「近現代のたばこ文化」エリアに設けられた「たばこメディアウォール」だろう。1898年から現代までの日本のたばこのパッケージやポスターなどが掲示されているが、国威を発揚する戦時下のものから「今日も元気だ たばこがうまい!」といった伝説の名コピー、さらには、近年の環境保護に配慮したポスターなど、それぞれに時代が反映されており興味深い。

japan160909-3.jpg

「たばこメディアウォール」の下部には、インタラクティブなデジタルライブラリーが。陳列棚内のたばこのパッケージをタッチすると、モニターにその銘柄の情報やポスターなどが表示される

異彩を放つ岩塩製の「キンガ姫」の像

 一方、塩エリアも多彩な展示を行っている。目を引くのが、ポーランドの巨大地下岩塩採掘場「ヴィエリチカ岩塩坑」に祀られる「聖キンガ像」をモチーフにした彫刻だ。岩塩層発見のきっかけとなった、ハンガリー王女でポーランドに嫁いだキンガ姫がモデルだという。

「特別に許可されたヴィエリチカ産の岩塩を使用し、現地の彫刻家や職人により制作されている」(袰地氏)と、実物とは異なるものの、いわば「2体目の本物」。なるほど、その滑らかでいて所々で光を放つ岩塩特有の質感には、どこか神々しさすら感じさせる。

japan160909-4.jpg

聖キンガ像。像だけでなく、像を納めた祠や床、頭上のシャンデリアもすべて岩塩で作られたとのこと

 また、ウユニ塩湖で切り出された湖塩や大粒の気泡が重なりあったような死海の塩、さらにはメキシコの天日塩に宝石を思わせるイランの岩塩など、世界中から集められた塩の数々。そして、日本の沿岸地で古来より行われてきた入浜式塩田のジオラマや、石川県珠洲市の仁江海岸で揚浜による塩作りを続ける角花家で実際に使われていた釜屋(移築復元)など、興味深い展示が続く。

japan160909-5.jpg

角花家で実際に使われていた釜屋の移築復元。現在、世界で1年間に作られる塩は約2億8000万トンだが、その多くは岩塩や塩湖など海水以外の塩資源から作られる。日本にはそうした資源がなく、海水からこうした手法により塩を作ってきた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

スペインに緊急事態宣言、大規模停電で 原因特定でき

ワールド

ロシア、5月8から3日間の停戦を宣言 ウクライナ懐

ワールド

パキスタン国防相「インドによる侵攻差し迫る」、 カ

ワールド

BRICS外相会合、トランプ関税の対応協議 共同声
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 7
    体を治癒させる「カーニボア(肉食)ダイエット」と…
  • 8
    トランプの中国叩きは必ず行き詰まる...中国が握る半…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    【クイズ】米俳優が激白した、バットマンを演じる上…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 8
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中