最新記事
シリーズ日本再発見

炊飯器に保温機能は不要――異色の日本メーカーが辿り着いた結論

2017年02月10日(金)18時40分
安藤智彦

炊飯器はバリエーション豊富な成熟市場だが

高級トースターという新市場を開拓したバルミューダ。具体的な販売台数は公表されていないが、当のThe Toasterは現在も値崩れすることなく、高級トースターの代名詞となり店頭で売れ続けている。

バルミューダが既存の「枯れた」商品市場に、高級モデルを引っさげ乗り込んだのはトースターが初めてではない。同社の家電参入第1弾となった「GreenFan(グリーンファン)」は、2010年当時「あり得なかった」3万円台の高級扇風機だ。浴び続けても疲れない心地よい風を生み出す「これまでにない」扇風機だった。

japan170210-sub1.jpg

Photo: BALMUDA

【参考記事】世にも美しいデザインの電気ケトル「バルミューダ・ザ・ポット」

そのバルミューダが今度は炊飯器を発売するという。トースターや扇風機の場合は、単機能を前提とした安価な製品が市場をほぼ専有していたため、高付加価値型のプレミアム製品の参入余地があった。だが、炊飯器は事情が異なる。

1万円程度で買えるエントリーモデルから10万円を超える高級モデルまで、バリエーションが豊かなうえ参入メーカーも数多い。その品質の高さも折り紙つきで、中国からの観光客が大挙して高級炊飯器を土産に持ち帰る「爆買い」は記憶にも新しい。

バルミューダが得意とする高付加価値という面だけ見ても、炊飯方式を制御するプログラムの精度や、専門の職人が手掛ける高品質な内釜といった具合に、かなりやり尽くされてきた製品領域なのは間違いない。10万円以上の高級モデルに関しては、長年にわたり炊飯器のベンチマークとされてきたかまど炊きの水準にかなり近いレベルに達していると言っても過言ではない。

これまでにない「激戦」が既に繰り広げられてきていた炊飯器市場。バルミューダが打ち出したコンセプトは、トースターのときと同じ、シンプルなものだった。お米を美味しく炊き上げる、寺尾の言葉を借りれば「かまど炊きを超える」ご飯の実現だ。

そうは言っても、ガスや薪などの火力で直接炊き上げるかまどに対し、電力に依存するしかない家電製品は歩が悪い。もちろん、コストを度外視すれば可能なのかもしれない。バルミューダがこれまで打ち出してきた高級路線を考えれば、新たな炊飯器の価格帯は相応のものとなるのが容易に推測できた。15万円か、20万円か、はたまた30万円超えか......。

「ご飯を美味しいまま保温することはできない」

だが、1月12日にベールを脱いだ「BALMUDA The Gohan」は、そんな安直な予想を大きく裏切る製品だった。価格は約4万5000円(税込)。決して安くはないが、既存の炊飯器と比べて高すぎるというものでもない。もちろん、「The Toaster」のときほどの衝撃もない。価格だけ見れば、中途半端な印象さえ抱きかねないだろう。バルミューダは今回、高級路線を捨てたのだろうか?

そうではなかった。

捨てたのは不要な機能だった。美味しいご飯を炊き上げるために、機能を研ぎ澄ます路線を選択したのだった。

たとえば、「The Gohan」には保温機能はない。「どうやっても、ご飯を美味しいまま保温することはできなかった」と、寺尾は断言している。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米中国防相会談、米の責任で実現せず 台湾政策が要因

ワールド

ロシア新型ミサイル攻撃、「重大な激化」 世界は対応

ビジネス

米国株式市場=上昇、ダウ・S&P1週間ぶり高値 エ

ビジネス

NY外為市場=ドル1年超ぶり高値、ビットコイン10
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中