炊飯器に保温機能は不要――異色の日本メーカーが辿り着いた結論
炊飯器はバリエーション豊富な成熟市場だが
高級トースターという新市場を開拓したバルミューダ。具体的な販売台数は公表されていないが、当のThe Toasterは現在も値崩れすることなく、高級トースターの代名詞となり店頭で売れ続けている。
バルミューダが既存の「枯れた」商品市場に、高級モデルを引っさげ乗り込んだのはトースターが初めてではない。同社の家電参入第1弾となった「GreenFan(グリーンファン)」は、2010年当時「あり得なかった」3万円台の高級扇風機だ。浴び続けても疲れない心地よい風を生み出す「これまでにない」扇風機だった。
【参考記事】世にも美しいデザインの電気ケトル「バルミューダ・ザ・ポット」
そのバルミューダが今度は炊飯器を発売するという。トースターや扇風機の場合は、単機能を前提とした安価な製品が市場をほぼ専有していたため、高付加価値型のプレミアム製品の参入余地があった。だが、炊飯器は事情が異なる。
1万円程度で買えるエントリーモデルから10万円を超える高級モデルまで、バリエーションが豊かなうえ参入メーカーも数多い。その品質の高さも折り紙つきで、中国からの観光客が大挙して高級炊飯器を土産に持ち帰る「爆買い」は記憶にも新しい。
バルミューダが得意とする高付加価値という面だけ見ても、炊飯方式を制御するプログラムの精度や、専門の職人が手掛ける高品質な内釜といった具合に、かなりやり尽くされてきた製品領域なのは間違いない。10万円以上の高級モデルに関しては、長年にわたり炊飯器のベンチマークとされてきたかまど炊きの水準にかなり近いレベルに達していると言っても過言ではない。
これまでにない「激戦」が既に繰り広げられてきていた炊飯器市場。バルミューダが打ち出したコンセプトは、トースターのときと同じ、シンプルなものだった。お米を美味しく炊き上げる、寺尾の言葉を借りれば「かまど炊きを超える」ご飯の実現だ。
そうは言っても、ガスや薪などの火力で直接炊き上げるかまどに対し、電力に依存するしかない家電製品は歩が悪い。もちろん、コストを度外視すれば可能なのかもしれない。バルミューダがこれまで打ち出してきた高級路線を考えれば、新たな炊飯器の価格帯は相応のものとなるのが容易に推測できた。15万円か、20万円か、はたまた30万円超えか......。
「ご飯を美味しいまま保温することはできない」
だが、1月12日にベールを脱いだ「BALMUDA The Gohan」は、そんな安直な予想を大きく裏切る製品だった。価格は約4万5000円(税込)。決して安くはないが、既存の炊飯器と比べて高すぎるというものでもない。もちろん、「The Toaster」のときほどの衝撃もない。価格だけ見れば、中途半端な印象さえ抱きかねないだろう。バルミューダは今回、高級路線を捨てたのだろうか?
そうではなかった。
捨てたのは不要な機能だった。美味しいご飯を炊き上げるために、機能を研ぎ澄ます路線を選択したのだった。
たとえば、「The Gohan」には保温機能はない。「どうやっても、ご飯を美味しいまま保温することはできなかった」と、寺尾は断言している。