「エコテロリスト」とは誰か──過激化する環境活動家とその取り締まりの限界
この問題に関しては、国連の専門家会議も「警察がゴム弾や催涙ガスを使用するなど過度な取り締まりを行ったことが衝突を加熱させた」と指摘し、フランス政府による判断に懸念を示している。国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチも同様の指摘をしている。
過大評価も過小評価もできない
ネブラスカ・オマハ大学のエリザベス・チェレキ教授は「環境活動家に'テロリスト'のラベルを貼ることは政府にとって便利な近道だ。彼らの動機づけや懸念を考慮しないまま、犯罪者として逮捕できるからだ」と指摘する。
この視点からすれば、フランス政府は政府に批判的なグループをテロリストにすることで取り締まり、結果的にマクロン政権の温暖化対策の遅れをカモフラージュしたことになる。
裁判所命令を受けて、フランス政府による「解散命令」は宙ぶらりんのままである。
ただし、環境過激派のリスクを過大評価するべきでないとしても、過小評価するべきでもない。
先述のチェレキ教授は「環境活動家が過激化する様子は、テロが生まれる典型的なパターン」とも指摘する。
ほとんどのテロは政治に無視され、社会的に封じ込められるなか、暴力的な反動として登場しており、このままではエコテロリズムが本格化する可能性がある、というのだ。
実際、中東でイスラーム過激派によるテロが急速に増えたのは1990年代だが、これは湾岸戦争(1991年)をきっかけに市民レベルで反米世論が噴き上がるなか、中東各国のほとんどの政府が外交的判断を優先させてアメリカに協力的な態度を示し、むしろイスラームの大義を掲げる集団が弾圧されたことを背景とした。
欧米で外国人や有色人種を標的とする極右テロが急増したのは2000年代末頃からだが、これは2008年のリーマンショックでグローバルな金融・経済に大きな問題があることが判明したにもかかわらず、各国が基本的に既定路線を維持し、それ以前から格差などに直面し、反グローバル化を訴えていたグループが黙殺された時期に符合する。
この視点からみれば、チェレキ教授の指摘は相応の説得力がある。
(筆者自身を含めて)ほとんどの人は自分の生活を優先しがちだ。地球温暖化が重大な問題だと思っていても、そのために道路封鎖をする団体を積極的に支持する人は多くないだろう。
さらに、経済状況やエネルギー事情を考えれば、現状を上回るペースで地球温暖化対策を進めることは不可能に近い。
つまり、ラスト・ジェネレーションなどの社会的認知が高まる見込みも、その要求が実現する見込みも、限りなく乏しい。
こうした状況のもと、便利な「テロリスト」の語だけが定着すれば、環境過激派の疎外感が強まり、ますます先鋭化させかねない。それは本物のテロリストを引き寄せる転機にもなり得るのである。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
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