コラム

「エコテロリスト」とは誰か──過激化する環境活動家とその取り締まりの限界

2023年09月29日(金)14時05分

そもそもテロリズムとは政治的信条に基づく暴力だが、基本的に殺人、集団での襲撃、誘拐、放火・爆破といった、人間の生命・安全にかかわる破壊活動を組織的、継続的に行うものを指す(逆に、破壊活動に政治的目標や主張がない通り魔やサイコパスなどはテロリストと呼びにくい)。

極右でもヘイトスピーチを繰り返すだけなら過激派と認知されてもテロリストとは呼ばれない。アメリカ大使館の前で星条旗を燃やすイスラーム主義者も、過激派ではあるだろうが、それだけならテロリストではない。

社会にとって著しく危険と認知されるからこそ、公的機関はテロリストに対して日常的な監視、逮捕、資産凍結、組織の解散といった厳しい対応を行える。

テロの呼称にはそれだけの重みがある。

ラスト・ジェネレーションなどの直接行動の多くは、そこまでの深刻さがない。端的にいえば、誰も殺されていない。

道路封鎖をする活動家は、ほぼ無抵抗のまま警官などに強制的に運ばれることがほとんどだ。この点だけなら、インド独立運動におけるマハトマ・ガンジーや公民権運動におけるキング牧師らの非暴力路線に近い(後に広く賞賛される彼らも当時「テロリスト」と呼ばれた)。

少なくとも、環境過激派のほとんどは対立者への暴力を誇示してきたアルカイダやKKK(アメリカの白人至上主義団体のルーツの一つ)と異なる。

解散命令は有効か

だからこそ、エコテロリズムや気候テロといった呼称がメディアで流布しても、環境過激派を正式にテロリストと扱うことは各国政府にとって難しい。

その一例としてフランスを取り上げよう。

フランス政府は6月21日、環境保護団体「地球の反乱(SLT)」に解散命令を出した。その前日、SLTメンバー18人が逮捕され、ジェラール・ダルマニ内務大臣は「集団的な暴力は容認されない」と主張した。

そもそもラスト・ジェネレーションは確固たる組織ではなく、ネット上で結びついた緩やかなネットワークである。

そのため「解散命令」そのものがシンボリックなものだが、それでもマクロン政権が環境団体を違法化したのは初めてのことで注目を集めた。

フランスでは3月、西部サン・ソリーヌで地下水を大規模に汲み上げて作られた貯水池に反対する約5,000人のデモ隊が3,000人の警官と衝突した。フランス政府はこの衝突で30人の警官が負傷したと発表したが、デモ隊の側について詳細は明らかでない。

SLTはこのデモの主催団体の一つで、国外からも参加者を募っていた。

SLTはこれ以外にも、イタリアと結ぶ新たな高速鉄道の建設に反対する違法デモ計画や、フランスを代表する建設企業の一つラファージュのセメント工場における器物損壊などの容疑がもたれている。

ところが、こうした理由からフランス政府が出した解散命令は、8月に裁判所によって停止された。行政裁判所は政府の解散命令が結社の自由に抵触するため慎重である必要を指摘し、SLTが暴力を煽動している証拠を内務省が十分示していないと判断したのだ。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

S&P、アダニ・グループ3社の見通し引き下げ 米で

ワールド

焦点:ウクライナ巡り市民が告発し合うロシア、「密告

ワールド

台湾総統、太平洋3カ国訪問へ 米立ち寄り先の詳細は

ワールド

IAEA理事会、イランに協力改善求める決議採択
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 9
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story