コラム

「エコテロリスト」とは誰か──過激化する環境活動家とその取り締まりの限界

2023年09月29日(金)14時05分
環境団体「ラスト・ジェネレーション」の活動家がスプレーで着色したブランデンブルク門

環境団体「ラスト・ジェネレーション」の活動家がスプレーで着色したブランデンブルク門(9月17日、ベルリン) Swantje Stein-REUTERS

<過激化する環境保護家の活動を「エコテロリズム」と呼ぶことが増えているが、その呼称は妥当なのか>


・欧米では地球温暖化対策が不十分と訴える活動家による抗議活動が過激化している。

・これに対してメディアでは「エコテロリズム」といった用語が流布している。

・しかし、環境保護のために過激な手段を用いているとしても、そのほとんどはテロリストと呼びにくいが、このまま社会と隔絶し続ければ環境テロが本格化する恐れが大きい。

欧米では環境活動家の過激化を「エコテロリズム」と表現することが増えている。

ブランデンブルク門を毀損したのは

ドイツの首都ベルリンで9月17日、環境団体「ラスト・ジェネレーション」の活動家がブランデンブルク門をスプレーで着色し、警察は14人を拘束した。1791年に完成したブランデンブルク門はベルリンのシンボルである。

現場の動画をSNSに掲載したラスト・ジェネレーションは「政治変革の時がきた」と高らかに叫んだ。

ラスト・ジェネレーションはドイツをはじめヨーロッパ各国で拡大しており、環境意識の高い若年層を中心にするとみられる。

そのほとんどは自国政府の温暖化対策を不十分と批判し、2030年までに化石燃料の使用を終わらせることを主張している。これは国際的な目標より遥かに高い水準だ。

こうした主張のもと、ラスト・ジェネレーションはしばしば幹線道路で座り込んだり、航空機の離発着を妨害したりするなど、人目をひく活動を行ってきた。そこには温室効果ガスの主な排出源である自動車や飛行機の使用が、ほとんど規制されていないことへの批判がある。

ラスト・ジェネレーションはドイツ以外でも、例えばイタリアでは観光名所のトレビの泉で黒い液体を撒くなど、文化財を標的にした抗議活動が目立つ。注目を集めて、温暖化対策を加速させる世論を喚起しようというのだろう。

「エコテロリズム」批判の高まり

しかし、当然のようにこうした活動への批判もある。

文化財の毀損に対して、イタリア当局は10,000〜60,000ユーロ(約150〜950万円)の罰金を科す構えだ。

ドイツでもブランデンブルク門のあるベルリンのウェグナー市長は表現の自由を尊重すると断った上で「こうした活動は文化財だけでなく、我々の未来にかかわる重大な問題に関する議論をも傷つける」と述べた。

道路封鎖に関しても同じで、座り込んだ活動家たちはしばしば警官だけでなくドライバーとも悶着を引き起こしており、ドイツのショルツ首相は5月、「何の解決の役にも立たない行動だと思う」「完全に馬鹿げている」と批判した。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

日製副会長、4月1日に米商務長官と面会=報道

ワールド

米国務長官、4月2─4日にブリュッセル訪問 NAT

ワールド

トランプ氏「フーシ派攻撃継続」、航行の脅威でなくな

ワールド

日中韓、米関税への共同対応で合意 中国国営メディア
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story