コラム

「借金大国ニッポン」をかすませる国家破産のリスク──世界の公的債務1京円の衝撃

2023年09月14日(木)15時25分

海外からの借入が持つリスク

日本の場合、国債のほとんどを国内の投資家が購入している。特に日本銀行は長期にわたる買い入れで国債の45%を保有している。

日銀による国債買い入れは金融政策と財政政策の境目をグレーにするもので、中央銀行の独立という意味で疑問もあるが、良くも悪くも資金が結局日本のなかを循環しているといえる。

また、中国の場合、GDPに占める海外からの公的債務の割合は国連のデータによると2%程度で、やはり海外からの借入は少ない。

これに対して、もともと所得水準の低い部類の途上国ほど、公的債務に占める海外資金の割合が高い。

対外公的債務の対GDP比(2021)

すでにデフォルトした国の多くは、同程度の所得水準の国よりこの点で海外依存の度合いが強く、なかにはレバノンのように100%を超える国さえある。

経済規模の小さい国ほど、社会的信用に乏しくなりやすく、借り換えなどが難しく、債務に耐える力は弱くなりやすいが、その返済の負担は国際的な変動によってさらに大きくなった。

海外からの借入のほとんどはドル建てである。

コロナ禍とウクライナ侵攻によって食糧やエネルギー価格が上昇したことで、多くの国では貿易収支が悪化した。外貨不足は返済負担を大きくした。

さらにアメリカの金利引き下げもあって2021年後半から段階的にドル高が進み、ウクライナ侵攻が始まった昨年2月頃からはこれが加速した。ほとんどの途上国・新興国の通貨の下落は、ドル建て債務の返済負担をさらに大きくしたのである。

なぜ海外からの借入は増えたか

ではなぜ、これらの国は海外からの借入を増やしてきたのか。

デフォルトの危機に直面する国の多くは、海外からの融資を国内のインフラ建設や産業支援に充ててきた。コロナ禍以前の10数年間、途上国・新興国の多くは好景気に沸いていたが、そのかなりの部分が、外部からの投資だけでなく、融資でまかなわれていたのだ。

少なくとも結果的に、計画性の乏しい借入だったことは間違いない。

ただし、その一方で、危うい借り手のリスクが軽視されたこともまた確かだ。

デフォルトに陥った国だけでなく、多くの途上国・新興国でこの10数年の間に海外への公的債務が増えたのは、大きく二つの原因がある。

第一に、大国間のレースだ。中国が台頭し、融資に基づくインフラ建設で各国に勢力を広げるにつれ、先進国もこれに対抗して貸付を増やした。大国が競って、いわば気前よく貸し付けたことが、途上国・新興国のリスク意識を以前より低下させたといえる。

スリランカの例をあげよう。同国政府の統計によると、この国が抱える公的債務のうち中国のものは約47億ドルを占める。これに対して、日本のものは約27億ドルだが、日本とアメリカがそれぞれ主導権を握るアジア開発銀行と世界銀行からそれぞれ54億ドル、36億ドル、さらにインドからも10億ドルの借入がある。

インド亜大陸の南端に浮かび、インド洋の海上ルートの要衝に位置する小国スリランカは大国の覇権争いの舞台となり、このことが過剰な借入をもたらす一因になったのだ。デフォルトの危機に直面する国は、多かれ少なかれ同じような状況にある。

途上国ではないが、アメリカの国債もやはり大国のレースの対象になってきた。米国債の約1/4を占める7兆ドル程度は海外が所有しているが、最大の買い手は日本(1兆ドル以上)であり、第2位は中国(8000億ドル以上)だ。

日中は立場こそ違っても、アメリカ政府への影響力を確保するため、率先して米国債を買ってきた点では共通する。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

フィンランドも対人地雷禁止条約離脱へ、ロシアの脅威

ワールド

米USTR、インドの貿易障壁に懸念 輸入要件「煩雑

ワールド

米議会上院の調査小委員会、メタの中国市場参入問題を

ワールド

米関税措置、WTO協定との整合性に懸念=外務省幹部
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story