「借金大国ニッポン」をかすませる国家破産のリスク──世界の公的債務1京円の衝撃
「安いマネー」の終わり
そして第二に、これに拍車をかけたのが膨大な民間資金だ。
中南米やアフリカの多くの国は1980年代にもデフォルトの危機に直面したが、この頃は先進国やIMFをはじめ公的な借入がほとんどだった。ところが現代では金融機関による貸付が途上国の債務のかなりの部分を占める。
例えばスリランカの場合、海外の銀行などからの借入は147億ドルにのぼり、公的債務の42%を占める。これは中国や先進国からの融資を上回る水準だ。
スリランカだけではない。国連によると、途上国・新興国の抱える公的債務の6割以上は民間資金だ。
こうした状況は、膨大な資金が市場に出回るなかで生まれた。
2008年のリーマンショックの後、先進国や新興国が集まるG20では世界経済を下支えするため、伸び代が期待されていた新興国への資金注入を増やすことが合意された。これと並行してアメリカは超低金利政策を導入し、有り余るほどのドルが世界中に拡散した。
このなかで投資だけでなく融資も急激に増えたが、金利の低さゆえに借り手も貸し手もリスク意識が低いまま、新興国を中心に資金が投入された。
いわゆる安いマネーの過剰流入は、表面的な景気の良さと「成長するグローバルサウス」のイメージを増幅させたものの、コロナ禍とウクライナ侵攻後の経済収縮とアメリカの金利引き上げをきっかけに急速に重荷になったのである。
日本にとってのリスク
デフォルトに直面する国では人々の生活も悪化しており、例えばガーナのインフレ率は42%を超えている。
債務危機の拡散はすでに国際的な議論の対象になっている。7月にパリで開催された世界金融をめぐる国際会議では、IMFが1兆ドルを新たに調達することや、世界銀行が地球温暖化などの影響で経済に打撃を受けている国からの返済を猶予すること、さらにデフォルトに陥ったザンビアの63億ドル分の債務返済のリスケジュールなどが合意された。
その一方で、返済の免除はほとんど議論になっておらず、時間がかかっても返済させることを前提にしている。IMFなどの新たな支援は、まず経済を立て直し、それから返済させることが目的だ。
貸付のかなりの部分を民間資金が占めていることもあって、債務免除は難しい。
貸した側からすれば、返済は当然だろう。IMFや世銀だけでなく、日中をはじめ多くの貸し手は債務免除について触れていない。
しかし、1980年代の中南米、アフリカの債務危機の場合、やはりIMFや世界銀行は「支援をむしろ増やすことで返済を可能にする」アプローチをとったが、結果的に1990年代半ばにIMFや世界銀行は債務を帳消しにせざるを得なくなった。デフォルトに陥った国の経済再建は容易でなく、その間の膨大な貸付は結局ムダになったのだ。
つまり、ただ「返せ」と言っても無意味なのであり、デフォルトに直面する国が債務返済できる状態にもっていけるかが、借り手の課題になっているのだ。
借金大国とはいえ日本がすぐにデフォルトに陥る兆候は確認されない。
その一方で、国内に世界屈指の債務を抱える日本は、国際的には指折りの債権者だ。
その意味で、世界に広がる債務危機で日本自身が破綻する可能性は低いとしても、決して無縁ではないのである。
※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。
※筆者の記事はこちら。
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