コラム

グローバルサウスがBRICS加入を目指す3つの理由──先進国で忘れられた70年の暗闘

2023年08月22日(火)14時20分

分裂は選択の余地を大きくする

第二に、「二大陣営に世界が分裂した状態」だ。これは途上国にとって選択の余地を大きくする。

この点で現代は冷戦時代とほぼ同じだ。

冷戦時代、途上国は必要に応じて共産主義陣営に接近することで先進国を牽制した。そのなかには、共産主義イデオロギーとは無関係なまま中ソと関係を強化する国もあった。

1952年のエジプト革命はその典型だ。

それ以前、エジプトのファルーク国王は旧宗主国イギリスやアメリカと良好な関係を築いていた。ただし、イギリスのスエズ運河を領有し続ける植民地時代さながらの状態は何も変わらず、国内の民主化も格差改善もほぼ手付かずのままだった。

王政を打倒するクーデタの中心にいたナセル大佐は共産主義者ではなかった。しかし、共和政樹立後、アメリカからの援助を断りソ連と接近し、さらにスエズ運河を国有化した。

つまり、ナセルは先進国と距離を置くために共産圏を利用したのである。

これに対してイギリスは1956年、ナセル体制転覆のためフランス、イスラエルとともにスエズに軍事侵攻(第二次中東戦争)したが、「植民地主義的」という批判を集めて撤退に追い込まれた。国際的な批判の中心にいたのは、アジア、アフリカの途上国だった。

1961年、当時イギリスの政財界を代表する人物の一人だったオリバー・フランクス卿はカナダでの公演で、憂慮すべき問題として東西冷戦とともに南北問題をあげた。

途上国の多い南半球と先進国の多い北半球の間の所得格差が「南北問題」と呼ばれたのはこれが初めてだったといわれるが、途上国の不満を軽視してはいけないというフランクスの警告は、こうした時代背景のもとで登場したのだ。

フランクスの指摘のうち東西冷戦を「中ロとの対立」、南北問題を「グローバルサウス」と置き換えれば、驚くほど現代の状況に符合するといえる。

グローバル化の置き土産

そして最後に、グローバル化がもたらした流動性だ。

冷戦時代、二大陣営に世界が分断して途上国には選択の余地が広がったが、スポンサーとの関係は固定的かつ排他的になりやすかった。エジプト革命後、ナセル政権はソ連から援助を受け取ったが、入れ替わりに先進国からの援助は激減した(1978年のキャンプ・デービッド合意でアメリカとの関係を回復したが、2011年の政変で再び冷却化した)。

現代ではこれと対照的に、ほとんどの途上国が先進国と中ロのいずれとも取引し、援助も受け取っている。

だからといって大国の側は、よほどの国(北朝鮮など)でなければ、相手陣営と通じる途上国に「見せしめ」のように援助や貿易を停止したりしにくい。それをすれば、ほとんどの途上国・新興国との関係を自ら遮断しなければならなくなるからだ。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米ユナイテッドヘルスケアのCEO、マンハッタンで銃

ビジネス

米11月ADP民間雇用、14.6万人増 予想わずか

ワールド

仏大統領、内閣不信任可決なら速やかに新首相を任命へ

ワールド

ロシア大統領、政府と中銀に協調行動要請 インフレ抑
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
2024年12月10日号(12/ 3発売)

地域から地球を救う11のチャレンジと、JO1のメンバーが語る「環境のためできること」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや筋トレなどハードトレーニングをする人が「陥るワナ」とは
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    韓国ユン大統領、突然の戒厳令発表 国会が解除要求可決、6時間余で事態収束へ
  • 4
    混乱続く兵庫県知事選、結局SNSが「真実」を映したの…
  • 5
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説な…
  • 6
    BMI改善も可能? リンゴ酢の潜在力を示す研究結果
  • 7
    肌を若く保つコツはありますか?...和田秀樹医師に聞…
  • 8
    【クイズ】核戦争が起きたときに世界で1番「飢えない…
  • 9
    JO1が表紙を飾る『ニューズウィーク日本版12月10日号…
  • 10
    ついに刑事告発された、斎藤知事のPR会社は「クロ」…
  • 1
    BMI改善も可能? リンゴ酢の潜在力を示す研究結果
  • 2
    エリザベス女王はメーガン妃を本当はどう思っていたのか?
  • 3
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや筋トレなどハードトレーニングをする人が「陥るワナ」とは
  • 4
    ウクライナ前線での試験運用にも成功、戦争を変える…
  • 5
    メーガン妃の支持率がさらに低下...「イギリス王室で…
  • 6
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説な…
  • 7
    「時間制限食(TRE)」で脂肪はラクに落ちる...血糖…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    エスカレートする核トーク、米主要都市に落ちた場合…
  • 10
    バルト海の海底ケーブルは海底に下ろした錨を引きず…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 10
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story