パリを覆う反差別デモと大暴動──フランス版BLMはなぜ生まれたか
デモ隊と警官隊の衝突現場(6月28日、仏ナンテール) Stephanie Lecocq-REUTERS
<この騒乱の原動力は「差別反対」だけではない>
・フランスでは17歳のアラブ系の少年が警官に銃殺されたことをきっかけに、全土で抗議デモと暴動が拡大している。
・その背景には、警察の発砲による死者の多くがアラブ系や黒人であることへの不信感だけでなく、経済的不満もある。
・暴動と略奪のエスカレートは、反移民を掲げる極右をこれまで以上に活性化させるきっかけにもなりかねない。
反差別デモが暴徒化
フランスでは大規模なデモが暴徒化し、30日までの3日間で600人以上が逮捕される事態に至った。
デモと暴動はパリをはじめ各地に広がり、自動車が放火されたり、商店のショーウィンドウが破壊されたりすることも増えている。そのためフランス警察は4万人を動員し、一部で催涙弾なども用いて鎮圧に当たっている。
エリザベス・ボルヌ首相は「あらゆる手段を用いる」と述べており、緊急事態宣言の発動も示唆した。
この騒乱の発端は6月27日、パリ(編集部注:郊外のナンテール)で17歳の少年ナヘル.M(未成年のため姓は発表されていない)が警察官に射殺されたことだった。ナヘルはいくつかの交通違反によって警官に止められた後、自動車の運転席で銃殺された。
当初、警察は「警官に止められた少年が自動車を動かし、警官をひこうとした」と発表して発砲を正当化した。しかし、SNSで拡散した動画などでは、確かに止められていた少年が自動車を動かそうとしていたものの、警官は自動車の横から運転席わきの窓越しに(つまりひかれるはずがない位置から)至近距離で胸部を(つまり致命傷になる部分を)いきなり発砲したことが判明した。
この虚偽の発表に加えて、銃殺されたナヘルがアルジェリア系とモロッコ系の両親をもつアラブ系だったことで、警察の対応が差別的という反発を爆発させたのだ。
フランスの「構造的差別」
もともとフランスでは、警官による有色人種の容疑者への発砲が議論の的になっていた。その背景には、不審とみなされたドライバーに対する発砲の急増がある。
マクロン大統領が就任した2017年の法改正により、それまでより警官による発砲の基準が緩和された。その結果、2016年に137件だった自動車に対する警官の発砲件数が2017年には202件に急増し、その後も年間150件前後で推移してきた。
それによって昨年は13人が死亡しており、ナヘルの件は今年に入ってから3例目だった。
ロイター通信によると、死者のほとんどは黒人かアラブ系だ。
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