パリを覆う反差別デモと大暴動──フランス版BLMはなぜ生まれたか
アメリカではしばしば白人警官が黒人やヒスパニックの容疑者を過剰に危険視し、目立った抵抗もしていないのに殺害してしまうケースが目立つ。2020年からのブラック・ライブズ・マター(BLM)のきっかけになったジョージ・フロイド事件はその典型だ。
こうした問題は個人レベルの差別意識や偏見というより、警察など公的機関がマイノリティに対して抱く組織的なもの、「構造的差別」と呼ばれる。
ナヘル殺害は同様の問題がフランス警察にも見受けられるなかで発生したものだ(アメリカのものと異なりアラブ系の死者が目立つが)。だからこそ、デモ参加者には白人もいるが、有色人種の方が目立つのである。
背後にある経済的不満
ただし、この騒乱は差別反対だけが原動力とはいえない。
「あらゆる大規模な抗議デモや革命は経済的不満を背景にしている」というのは政治学で広く指摘されていることだ。「自由、平等、博愛」を掲げた1798年のフランス革命は、資本主義経済の発達の影で進んだ生活コスト上昇を背景にしていた。
現代でも、アラブの春、香港デモ、BLMといった変動の影には、常に経済的不満が見受けられる。
現在のフランスもやはり深刻な生活苦に直面している。コロナ感染拡大とウクライナ戦争をきっかけに上昇したインフレ率は、日本のものを上回る。さらに、フランスは慢性的に失業率が高く、世界銀行によると7.4%(2022年)と先進国で屈指の高水準だ。
その一方で、マクロン政権は就任以来、財政赤字削減のための改革を進めてきたが、これが生活コスト上昇に対する広範な危機感を招いてきた。
今年3月には年金支給年齢引き上げへの反対活動が128万人も参加する抗議デモに発展し、やはり一部が暴徒化したため、予定されていたイギリスのチャールズ新国王の初外遊が延期されるほどだった。
こうして高まっていた不満が、警官の発砲による少年殺害のセンセーションで爆発したとみてよい。背景に経済的不満があったとするならば、暴動のなかで略奪が横行することも不思議ではない。6月29日、パリ中心地リヴォリ通りにあるナイキの店舗が襲撃され、14人以上が逮捕された。
マクロン大統領は警官の発砲を「不可解で許されないこと」と述べる一方、暴力行為を批判し、全国民に平静を呼びかけている。
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