コラム

「ロシア封じ込め」の穴(1)──ロシア非難をめぐるアフリカの分断と二股

2022年05月09日(月)15時10分

ただし、ケニアのように経済制裁にまで踏み切る国は少ない。むしろ非難決議に賛成しても、それ以上かかわらない国の方が一般的だ。

例えば、コンゴ民主共和国(DRC)はロシア非難決議に賛成したものの、禁輸などの具体的措置はとっていない。DRCはリチウムイオン電池の生産に使用されるコバルトの大産出国で、外交的立場はもともと西側に近いが、2019年からワーグナーの活動も報告されている。

つまり、DRC政府の行動は、いわば西側とロシアの間でバランスをとったものといえる。

また、アフリカ大陸屈指の産油国ナイジェリアの石油相は5月3日、モロッコまでのパイプライン建設にロシアが投資の意欲をみせていると発表した。このプロジェクトは総延長5660kmに及ぶ大規模なもので、2016年に計画されながら、資金難から建設が遅れてきた。

ナイジェリアもロシア非難決議に賛成しているが、石油相はロシアからの投資を断るとは明言していない。

フタマタを認めざるを得ない西側

どの国も自国の生き残りを最優先にする以上、こうした'フタマタ'はいわば国際政治の常識で、非難したところで何にもならない。そもそも国連での決議は、究極的には票の売り買いをする場とさえいえる。

むしろ重要なのは、アフリカにフタマタが目立つこと自体、先進国の求心力の低下を示すことだ。

自国の経済状況が厳しさを増すなか、先進国は協力者に十分報いることができない。これをアフリカからみれば、立場を固定することによる報酬が少ないなら、西側とロシアの間でバランスを取ろうとする国が増えても不思議ではない。それはちょうど、給料の伸びない会社に忠誠を誓うより、ほどほどのところで副業に精を出すことに近い。

それはウクライナ戦争が長期化するなか、より鮮明になる公算が高い。

例えば、多くのアフリカ諸国もその他の国と同様、あるいはそれ以上に、食糧価格の高騰に苦しんでいる。小麦がアフリカ大陸のロシアからの輸入額の約90%、ウクライナからの輸入額の約50%を、それぞれ占めていることは、これに拍車をかけている。

ところが、ロシア批判の急先鋒になったケニアに対して、5月初旬に15万トン以上の小麦の供給を約束したのは、アメリカ、カナダ、オーストラリア、フランスなどの西側の大輸出国ではなく、東欧のセルビアだった。セルビアは3月2日の国連総会決議ではロシア非難に賛成したものの、歴史的・民族的にロシアに近く、NATOにも加盟していない。

「西側についても得られるものは多くない」と思われれば、アフガン侵攻の時より目立つアフリカの西側離れは、今後さらに進みかねない。しかもそれはアフリカに限らない。アフリカほど鮮明でなくとも、中東などその他の地域でも、ウクライナ侵攻への微妙な反応は目立つからだ。(続く)

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ハマス、イスラエルのガザ停戦案に応じない方針 仲介

ワールド

豪首相、米の関税措置「友好国の行為でない」 対抗措

ビジネス

情報BOX:米相互関税、各国首脳の反応

ビジネス

テスラ世界販売、第1四半期13%減 マスク氏への反
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台になった遺跡で、映画そっくりの「聖杯」が発掘される
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    博士課程の奨学金受給者の約4割が留学生、問題は日…
  • 9
    トランプ政権でついに「内ゲバ」が始まる...シグナル…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 9
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story