コラム

「ロシア封じ込め」の穴(1)──ロシア非難をめぐるアフリカの分断と二股

2022年05月09日(月)15時10分

また、南アフリカでは1994年、白人による人種隔離政策(アパルトヘイト)が終結し、多数派である黒人の権利が回復したが、反アパルトヘイト運動を最初に支援したのはアフリカ諸国と当時の東側共産圏だった。西側は南アフリカの当時の白人政権と友好関係にあり、反アパルトヘイト運動を当初「テロリスト」とみなしていたからだ。

もっとも、先に反アパルトヘイト運動を支持したのは、ソ連の方がアメリカなどより人種差別的でなかったからというより、西側に対するイデオロギー批判の目的の方が大きかったといえる。

とはいえ、どんな目的であれソ連の方が先に人種差別撤廃を求めるアフリカの声に応じたことは間違いなく、その意味でアフリカのなかにある根深い反欧米感情が、ロシアへの義理と結びついても不思議ではない。

ロシア人傭兵に頼る国

過去の義理だけでなく、現在ロシアに頼っている国も少なくない。内乱が続くマリ、中央アフリカ、マダガスカルなどでは、ロシアの軍事企業「ワーグナー・グループ」の活動が目立つ。ワーグナーは要するに傭兵集団で、ロシア政府との深い結びつきも深く、ウクライナでの活動も指摘されている。

しかし、アフリカではイスラーム過激派の台頭などによって国内の治安を十分に保てない政府が、ワーグナーと契約することが増えている。その一因は、西側先進国がアフリカの紛争への関与を控えるようになっていることだ。

アメリカはトランプ政権時代にアフリカへの関与を控え、結果的に中国のアフリカ進出を加速させる一因となった。バイデン政権はアフリカへのアプローチを強める姿勢をみせているが、アフガン撤退など「テロとの戦い」から手を引くなか、アフリカへの軍事援助には消極的だ。

さらに、「アフリカの憲兵」とも呼ばれ、軍事協力を通じて影響力を保ってきたフランスも、アフリカの対テロ作戦から徐々にフェードアウトし始めている。

ロシアのアフリカ進出はこうした間隙を縫うものだが、その一方でワーグナーによる民間人の殺害など深刻な人権侵害も数多く報告されている。それでも、治安悪化による政権批判を抑えたいアフリカ各国政府にとって、いわば背に腹は変えられない。

公式と非公式の狭間

もっとも、アフリカの残り半分は西側とともに、国連総会でロシア非難決議に賛成したわけで、そのなかでもケニアの国連大使はロシアによるウクライナ侵攻を「植民地主義の歴史の産物」と非難し、そのシーンは西側メディアで大きく取り上げられた。

それにともない3月初旬、ケニアはロシアへの輸出を停止した。ケニアからロシアへは茶葉やコーヒー豆などが輸出されており、2021年段階でその輸出額は約8600万ドルにのぼっていたが、それを自ら棒に振ったのだ。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国人民銀、中国・香港市場の連携強化を推進

ワールド

焦点:ダボス会議「トランプ・ショー」で閉幕、恐怖と

ビジネス

緊張感をもって市場の状況を注視=為替で片山財務相

ワールド

マクロスコープ:衆院選あす公示、勝敗左右する与野党
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:「外国人問題」徹底研究
特集:「外国人問題」徹底研究
2026年1月27日号(1/20発売)

日本の「外国人問題」は事実か錯誤か? 7つの争点を国際比較で大激論

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 2
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰に地政学リスク、その圧倒的な強みとは?
  • 3
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 4
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 5
    「外国人価格」で日本社会が失うもの──インバウンド…
  • 6
    「楽園のようだった」移住生活が一転...購入価格より…
  • 7
    麻薬中毒が「アメリカ文化」...グリーンランド人が投…
  • 8
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 9
    私たちの体は「食べたもの」でできている...誰もが必…
  • 10
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 1
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 2
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 3
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味を帯びる「超高齢化」による「中国社会崩壊」
  • 4
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 5
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 6
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 7
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 8
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 9
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の…
  • 10
    麻薬中毒が「アメリカ文化」...グリーンランド人が投…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 7
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 10
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story