「ロシア封じ込め」の穴(1)──ロシア非難をめぐるアフリカの分断と二股
また、南アフリカでは1994年、白人による人種隔離政策(アパルトヘイト)が終結し、多数派である黒人の権利が回復したが、反アパルトヘイト運動を最初に支援したのはアフリカ諸国と当時の東側共産圏だった。西側は南アフリカの当時の白人政権と友好関係にあり、反アパルトヘイト運動を当初「テロリスト」とみなしていたからだ。
もっとも、先に反アパルトヘイト運動を支持したのは、ソ連の方がアメリカなどより人種差別的でなかったからというより、西側に対するイデオロギー批判の目的の方が大きかったといえる。
とはいえ、どんな目的であれソ連の方が先に人種差別撤廃を求めるアフリカの声に応じたことは間違いなく、その意味でアフリカのなかにある根深い反欧米感情が、ロシアへの義理と結びついても不思議ではない。
ロシア人傭兵に頼る国
過去の義理だけでなく、現在ロシアに頼っている国も少なくない。内乱が続くマリ、中央アフリカ、マダガスカルなどでは、ロシアの軍事企業「ワーグナー・グループ」の活動が目立つ。ワーグナーは要するに傭兵集団で、ロシア政府との深い結びつきも深く、ウクライナでの活動も指摘されている。
しかし、アフリカではイスラーム過激派の台頭などによって国内の治安を十分に保てない政府が、ワーグナーと契約することが増えている。その一因は、西側先進国がアフリカの紛争への関与を控えるようになっていることだ。
アメリカはトランプ政権時代にアフリカへの関与を控え、結果的に中国のアフリカ進出を加速させる一因となった。バイデン政権はアフリカへのアプローチを強める姿勢をみせているが、アフガン撤退など「テロとの戦い」から手を引くなか、アフリカへの軍事援助には消極的だ。
さらに、「アフリカの憲兵」とも呼ばれ、軍事協力を通じて影響力を保ってきたフランスも、アフリカの対テロ作戦から徐々にフェードアウトし始めている。
ロシアのアフリカ進出はこうした間隙を縫うものだが、その一方でワーグナーによる民間人の殺害など深刻な人権侵害も数多く報告されている。それでも、治安悪化による政権批判を抑えたいアフリカ各国政府にとって、いわば背に腹は変えられない。
公式と非公式の狭間
もっとも、アフリカの残り半分は西側とともに、国連総会でロシア非難決議に賛成したわけで、そのなかでもケニアの国連大使はロシアによるウクライナ侵攻を「植民地主義の歴史の産物」と非難し、そのシーンは西側メディアで大きく取り上げられた。
それにともない3月初旬、ケニアはロシアへの輸出を停止した。ケニアからロシアへは茶葉やコーヒー豆などが輸出されており、2021年段階でその輸出額は約8600万ドルにのぼっていたが、それを自ら棒に振ったのだ。
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