コラム

「ロシア封じ込め」の穴(1)──ロシア非難をめぐるアフリカの分断と二股

2022年05月09日(月)15時10分
ロシア・アフリカ首脳会議でのプーチン大統領とケニアのウフル・ケニヤッタ大統領

ロシア・アフリカ首脳会議でのプーチン大統領とケニアのウフル・ケニヤッタ大統領(2019年10月24日) Sputnik/Alexei Druzhinin/Kremlin via REUTERS

<国連に加盟するアフリカ大陸54カ国のうち、非難決議で明確にロシアを批判したのは約半数にとどまった。非難決議に賛成しても、それ以上かかわらない国も多い>


・アフリカにはロシア非難と距離を置く国が多く、それは1980年代のアフガン侵攻の時代と比べても目立つ。

・ロシア非難に加わらない国には、ロシアに義理のある国が多い。

・西側に協力してロシア非難に加わる国のなかにも、実質的にはロシアとの関係を維持する国の方が多く、そこには西側の求心力の低下をうかがえる。

ウクライナ侵攻をきっかけに、日本を含む西側は「ロシア封じ込め」に力を入れている。しかし、それが西側の期待通りロシアを孤立させているかは疑わしい。中国やインドだけでなく、最貧国の多いアフリカにもロシア批判と距離を置く国は目立ち、そこには西側の求心力の低下を見出せる。

ロシア批判を控えるアフリカ

ウクライナ侵攻をきっかけに、当事者同士の非難の応酬はもはや珍しくもないが、その一方で沈黙にスポットが当たることはあまりない。

とりわけアフリカには、そのことの良し悪しはともかく、西側のロシア批判と距離を置く国が少なくない。それは国連総会での決議からみて取れる。

国連総会では3月2日、ロシアによるウクライナ侵攻を非難する決議が、193カ国中141カ国の賛成で採択され、反対したのはベラルーシや北朝鮮など5カ国にとどまった。つまり、世界全体でみればロシア非難決議は圧倒的多数で採択されたことになる。

ただし、アフリカに関しては事情が異なる。

アフリカ大陸の国連加盟国54カ国のうち、3月2日のロシア非難決議に賛成したのは、28カ国だった。これに対して、反対票を投じたのはエリトリアだけだったが、棄権・無投票は合計25カ国にのぼった。要するに、明確にロシアを批判したのはアフリカの約半数にとどまったのだ。

mutsuji220509_africa2.jpg

冷戦時代より鮮明な分断

この分断は、アフリカが東西両陣営に分かれていた冷戦時代より鮮明になっているといえる。

1980年、その前年にソ連がアフガニスタンに侵攻したことを受け、アメリカなどの提唱によって国連総会でソ連非難決議の採択が行われた。これに賛成したのは104カ国で、当時の国連加盟国の68%を占めた。

一方、今回のロシア非難決議に賛成した141カ国は、現在の加盟国全体の73%に当たる。これだけ比べると、アフガン侵攻の頃と比べて、ロシア非難に回る国は多い。

しかし、アフリカに限れば、むしろ逆の傾向がみえる。アフリカのなかで1980年のソ連非難決議に賛成した国は54%だったが、今回のロシア非難決議に賛成した国は52%で、わずかながらも減少したからだ。

mutsuji220509_africa3.jpg

ロシアへの「義理」

なぜアフリカにはロシア非難に消極的な国が目立つのか。

ロシア非難決議に賛成しなかった国のなかにはタンザニアやウガンダなど、冷戦時代から大国間の争いと距離を置いてきた国も多い。

その一方で、アフリカには冷戦時代からロシア(ソ連)に「義理」のある国も少なくない。アンゴラやモザンビークなどは、ソ連からの軍事援助を受けてポルトガルの植民地支配に抵抗した勢力が現在でも政権を握っている。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story