コラム

ウクライナ侵攻で膨らむトランプ復活の可能性

2022年03月01日(火)20時45分

この間、ロシアは傭兵などを用いてウクライナ東部の実効支配を強化していった。つまり、トランプ政権時代にロシアはすでに事実上ウクライナ東部を手に入れていたうえ、アメリカやNATOをさし迫った脅威と感じずに済んだ。だから、何がなんでもウクライナを確保するため、侵攻する必要もなかったといえる。

アメリカ内政としてのウクライナ問題

トランプのロシア寄りの姿勢は、その登場からして不思議ではない。もはやほとんど忘れられているが、トランプが当選した2016年大統領選挙では、ロシアが組織的に関わっていたという疑惑(ロシアゲート)が大きな問題になった。

もっとも、アメリカ大統領選挙に手を伸ばしたのはロシアだけではなく、トランプの対抗馬だったクリントン陣営にはウクライナがアプローチしていたといわれる。2014年のクリミア危機以降、ウクライナとロシアの対立はアメリカの国内政治にも影を落としてきたのだ。

しかし、さすがにロシアの支援で当選したというイメージは、アメリカ大統領として致命的だ。だから当選後のトランプは疑惑払拭のため、ことさらロシアに厳しい態度を示さざるを得なくなり、クリミア危機に関連する対ロシア制裁を段階的に強化した。

そこには党派的な事情もあった。もともと共和党は民主党よりロシアに対して強硬で、クリミア危機でも共和党支持者ほどウクライナへの軍事援助に積極的だったため、トランプ政権にはその支持を取り付ける必要もあったのだ。

しかし、これはほぼ「格好だけ」で、先述のようにトランプ政権の対ロシア政策は穴だらけだったわけだが、この転機になったのが2021年のバイデン政権発足だった。

トランプ政権と対照的にバイデン政権はウクライナ支持が鮮明で、さらに中国だけでなくロシアの封じ込めに熱心でもある。昨年10月にバイデン政権が、トランプ政権時代に凍結されたジャベリン提供に踏み切ったことは、その象徴だ。

つまり、超大国アメリカを再生させようとするバイデンの登場は、ロシアにとって大きな圧力になった。これがロシアの危機感と暴走を呼ぶきっかけになったとすれば、「アメリカ第一」のトランプの方が、プーチンからすればよほど扱いやすかったといえる。

2024年大統領選挙のオッズは

この背景に照らすと、プーチンがそれをどこまで狙っていたかは定かでないが、少なくとも結果的に、今回のウクライナ侵攻がトランプ復活の援護射撃になることはほぼ間違いない。

バイデン政権の支持率は、その経済対策やコロナ対策への批判から低下する一方で、今年1月の世論調査では、その仕事ぶりを「高く評価する」と「ある程度評価する」が41%だったのに対して、「全く評価しない」「あまり評価しない」が56%だった。

この支持率は、ロシアのウクライナ侵攻に実効性ある対策を講じられなければ、さらに下がっても不思議でない。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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