コラム

「親ロシア派政権樹立はウクライナ人のため」か──レジーム・チェンジの罠

2022年02月27日(日)19時45分

どちらの場合も新政権が、後ろ盾であるアメリカ寄りになったことは不思議でない。しかし、「アメリカ寄り=民主的で人権を尊重する」とは限らない。どちらの政権も実態は汚職に塗れ、反体制派を抑圧するものになったが、それでも対テロ戦争と民主主義を大義にレジーム・チェンジを行なったアメリカは、これらを擁護し続けた。

アフガニスタンの場合、多くの人に充満していたこの不満が、昨年のタリバン復活の土台になった。

ロシアは従来アメリカのレジーム・チェンジを「外国政府を自分に都合よく置き換える一方的な措置」と批判してきたが、ウクライナ侵攻のそれは自ら批判してきたレジーム・チェンジに他ならない。「ネオナチ」の主張も、そこにある程度の事実が含まれているとしても、レジーム・チェンジを少しでも正当化しようとする方便であることも疑いない。

ただし、力ずくのレジーム・チェンジは最終的に失敗しやすい。アフガニスタンやイラクでは、アメリカ寄りの政府と一般の人々の温度差が大きくなった挙句、内乱が逆に激化して混乱は常態化している。その意味でも、ロシアによるレジーム・チェンジが「ウクライナ人のためになる」かは大いに疑問なのである。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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